耐震セミナーのお知らせ

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『住まいの防火・防災展 2011』にて
(主催:大阪市消防局 予防部)
Agorasメンバーによる
木造住宅の耐震セミナー(入場無料)が開催されます。

場所 : 大阪近鉄百貨店 阿倍野店 9階イベントルーム
時間 : 2011年3月5日(土) 午後2時より

午前10時より、相談会も実施いたします。
お気軽にご参加くださいませ。

瑕疵調査と扇動家

以前、このような事を考えていました。

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建築には、生命・財産の容器としての安全性、街並みを構成する要素としての形態、生活を支える環境としての快適性能、資産・社会資本としての価値の確保、そしてステイタスを物語る意匠など、多くの与条件が付される。かつて、消費者はこれら諸条件を、良識をもってバランスよく発注し、生産サイドは持てる能力を惜しみなく投入する事でこれに応えてきた。
然るに、今日我が国で多発している建築紛争は、建築に対する不信を煽り、市民社会を混沌に陥れ、建築から文化という誇りを奪い去ろうとしている。

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瑕疵担保法がスタートして、問題を抱えた新築住宅は減少したように見受けられます。
それでも、研鑚を忘れた技術の稚拙、独善ともいえる独自理論の展開、建築関連法令に適法である事を奇貨として配慮という名の美徳を置き去りにした「瑕疵調査」は、まだまだ後を絶ちません。そしてその陰には、扇動家とも言うべき存在が否定できないのです。
今回は、彼ら扇動家たちの扇動家たる所以をご紹介しましょう。

防水層の欠落を指摘したA氏
漏水に苦しむ建物がありました。仮にBと呼びます。
RC造の外壁には悲しくなる程の白華がありますし、バルコニーに出るテラスサッシからは、雨が降ると水が入ってきます。天井扇やダウンライトからは、ポタポタと水滴が落ちます。台風が来たときには眼も当てられない状況です。建てた工務店は、知らんぷりを決め込んでいた訳ではありません。個人的な印象を言えば、かなりの対応をしてきたように感じられたのですが、それでも漏水は止まらなかったのです。
工務店は、設計自体に問題があると考えていました。工事中から「?」だったそうで、それを建築家に投げかけましたが、決められた工程もあって功を奏しませんでした。建物Bは悲鳴を上げ、他の工務店による大改修を決断し、漏水調査に定評があると噂のA氏に調査を依頼しました。

A氏は、簡単な調査を経て、ルーフバルコニーの防水の再施工を指示しました。その理由は「防水が施工されていないから」です。
ルーフバルコニーは小規模ではありません。工務店はいぃ加減な施工をする会社とは思えませんし、建築家が作成した納まりスケッチは数十枚に昇りますから、監理も半端ではなかったと推定されます。常識的には防水層が無いとは考えられません。そこで、A氏の調査報告書を見せて貰いました。破壊調査もせずに、どうやって防水層が施工されていない事を発見できたのか興味津々だったのです。

設計図書に依れば、ルーフバルコニー床面は「アスファルト防水の上、押えCon(豆砂利洗い出し)」です。排水溝には大きめの玉砂利が撒かれ、背の高いストレーナ(ドレインのカバー)だけが見えています。A氏は、この玉砂利を除けて排水溝を顕わにしました。排水溝は、つまりは押さえConに設けられた排水溝は、至極当たり前の状況なのですが「ここに防水層が見えない」からという理由で「防水層の欠落」を指摘したようです。
読者諸兄には「えぇっ?」でしょうし、筆者にも訳がわかりませんでした。写真で示された排水溝は押え層に設けられた凹みで、その下にはきっと防水層があるはずです。建物調査には既成概念を排除して臨まなければいけないことは承知していますが、もし押え層の下の防水層が無いというなら、その前に押え層をはつる等してでも確認すべきではないでしょうか。
もう少し、A氏の調査報告書を読み進みむと、屋根防水の項にあたりました。実は、A氏が調査する前に既に屋根防水を改修しており、A氏は、その工事記録写真に基づいて「防水下地の杜撰」を指摘しているのです。(どうやらA氏は、漏水の原因は防水層にあると思い込んでいるようです)

屋根は断熱シート防水で、記録写真には、断熱材を5㎝□程度正方形にカットされている写真が掲載されていました。A氏の注釈では「改修工事で発見された下地の杜撰」と。つまり(新築工事の時のハナシです。念の為)防水層下の断熱材に5㎝□の穴が開いていて、それをそのままにして防水層を施工しているから、非常識極まりない防水工事だと言うのです。
「んな馬鹿な!」でしょ。でもA氏は至極まじめに「このように大きな穴が見落とされていることは、防水工事業者がいい加減なだけでなく、請負者の管理不行き届きだ」と言うのです。
どぅ考えても「んな馬鹿な!」です。現場の不注意による穴だったらこんなに綺麗な正方形ではないでしょうし、穴が空いた下地に平然と施工する防水業者があるでしょうか。試しに、A氏の報告書に掲載された写真をスキャナで取り込んで拡大してみました。そうすると、この正方形がいやにキッチリとカットされていて、カッターナイフで切り取られた跡が見て取れます。そしてその脇に、今まで見えていなかった「糸屑」のような影が見えました。更に拡大すると1mm程の太さでくるくる巻いています。その色がシートと同じなので、小さな写真では見えなかったのです。

この正方形は、屋根の改修工事担当者が、断熱材の状況を確認するためにカットしたものではないでしょうか。だから、シートの屑が映っているのでしょうし、キッチリとした正方形だったのではないでしょうか。

A氏は権威者であることを自称しています。自らの実績を過度に表現することを嫌うのが私たちの業界ですから、そんな中でA氏のアナウンスは、一般市民には随分心地よく感じられるでしょう。そして頼りたくなるでしょう。
でも、同じ建築士としては、ここまで恥ずかしくなるような間違いは控えて欲しいものです。

実は構造を知らなかったC氏

マンションの跳ねだし通路の出隅が下がるという事故がありました。事業主は陳謝し、すぐさま補強工事を行ないましたが、住まい手には「他の部分は大丈夫なのか」という不安が残りました。事業主は、研究機関や大学に依頼して調査すると申し出たのですが、事業主が依頼したところは信用できないとして、管理組合が独自で依頼することになりました。
管理組合の理事がインターネットで探し当てたC氏に、電話で「構造の瑕疵の疑い」を伝えると、C氏は助手を連れてすぐさまやってきました。そして管理組合がひと通り建物を案内した後、C氏は、管理組合にとっては案の定というべき回答を口にしました。「仰るとおり、構造の瑕疵の疑いが濃厚ですね」同時に「瑕疵を特定するには相当詳細な調査が必要」とも言いました。管理組合は「ごもっとも」と思い、費用がいかほど必要かを訊ねたところ「管理組合が負担すべきではない。予備費がおありかもしれないが、相当高額になることと、そもそも瑕疵の疑いがあるから調査するという趣旨からすれば、費用は事業主が負担すべきである」と言われ、理事たちは内心ホッとしました。

管理組合は、ヘタをすれば訴訟になるかもしれないと思っていたので、調査費用を事業主に負担させることに異論が出ましたが、C氏は管理組合で負担できるような金額ではないと匂わせています。理事の一人が単刀直入に尋ねました。「事業主に費用負担させたら、万一の時に訴えにくいだろうか」と。C氏は「訴訟するより、改修させることを主眼に置くべきだ。改修方法は私が提案するし工事も指導する。何より、私が調査すれば事業主は否とはいえないはずだ。私は、瑕疵調査の分野ではそれなりに名前が通っている。なんなら事業主と交渉してあげてもいい。」

「大した自信だ!」と理事たちは思いました。そして調査費用の負担を事業主に求めました。

事業主はしぶしぶながらもこの要請に応ずると回答し、見積書等の提示を求めたところ、管理組合はまだ入手しておらず、C氏と直接連絡を取り合って欲しいといいました。
数日後、C氏から事業主宛に見積書が送付されました。金額としては想定内だったので、それで瑕疵が特定できるのか多少疑問ではありましたが、管理組合の理解を得ることが重要だと思い、詳細を訊くことも無く了承しました。

C氏は、建物周囲に足場をめぐらせ、長期間多くの人員を配して調査しました。でもこれは所謂外壁調査のようで、結果として提出された調査速報を見ても、管理組合が心配している構造の安全性を確認するための調査とは思えません。C氏に申し出ると、「これから内部の調査を始めるところだ。あんまり先走って貰っては困る!」と居丈高な返事が返ってきました。
事業主は、黙って調査を見守っています。

数ヶ月して、C氏からようやく調査報告書らしき書類が提出されました。けれど、住戸内部の床レベルを計測した数値を羅列しただけのもので、考察はありません。ただ「床スラブの随所にゆがみが見られる」とあるだけです。理事長が「それで、構造的にはどうなんですか?」と問い合わせると、「これから構造計算する。その後でないと何とも云えない」のだそうです。「まだこれから構造計算するの?」と、理事会も少し疲れてきました。同席していた管理会社(事業主の系列)は思わず「一体どれだけ費用がかかるんでしょう?」と漏らしてしまいました。

事業主は、住まい手の数人から、調査の様子を聞くことが出来ました。床は上げ床でカーペットを貼ってありますが、カーペットも上げ床も外したことは無いそうです。こんな調査結果で、建物の構造を確認できるのかしらと、かねてから相談していた研究機関に問い合わせたところ「これじゃなんにも判らないと思いますよ」とあっさり言われてしまいました。
C氏が最初に行なったのは、外壁の劣化調査でした。次に行なったのは単なる仕上げ床のレベル計測で、そこから何も読み取ることは出来ません。

理事会のメンバーたちは気付きました。C氏が大規模な調査を行ったのは、その手数料を目的としていた可能性が感じられたのです。不況が長く続き、毎月、スタッフの人件費支払いにおびえる状況は察して余りあるところがありますが、依頼者と費用負担者が相違すると言う特殊な状況を演出した上で、本旨から外れた調査を行なって巨額の費用をせしめるというやり方は、決して褒められたものではありません。C氏が、ある種有名な存在である事は事実ですが、であればなおさら、今後は自重していただきたいと思う次第です。

自分のイメージだけを大切にする設計者

Gさんは、実家を建替えるにあたって建築家Hに設計監理を依頼しました。ホームページで作品を見て、とてもおしゃれで気に入ったのです。報酬は工事費の●%と言うことで、HPに書かれているとおりです。2人目の子供が妻のおなかにいるので、Gさんは急いで契約しました。

何度もHの事務所に通い、打ち合わせを重ねて設計が完了し、工事が始まりました。

妻の出産があって、好天の土曜日、しばらくぶりに完成直前の現場を覗くと、想像以上に素敵な佇まいです。おおいに気に入って、上機嫌で中に入りました。中庭に向いて、2階にも大きな窓があってとても明るく、妻は大喜びでした。でも「?」と思いました。2階の大きな窓を開けると、下は庭のデッキです。監督さんに「手摺まだなんですね」と言うと、「手摺は無いんです」と答えられてびっくりしました。「設計図に手摺がないので、H先生にどんな手摺にしましょうかってうかがったら、手摺はつけないと指示されたんですよ」とのこと。「先生のイメージに合わないんですかねぇ」とも。

これでは子供だけでなく、大人にとっても危険です。その場でH事務所に電話すると丁度建築家Hが居て、「手摺をつけたらイメージが壊れるんですよ。見ていただいた模型にも手摺は無かったでしょ」と言われました。模型に手摺があったのか無かったのかGさんは思い出せませんでしたので、「それでも小さな子供も居ることですし」と丁重に頼みました。するとHは「どうしても危険だと仰るのなら、窓をあかないようにしましょうか」と言います。横にいる妻にいうと、「窓が開かないと、風が通らないじゃないの。それにガラス掃除はどうするのよ」と言います。これにHは「プロのお掃除を頼めばいいじゃないですか」と答えました。

言葉を失ってしまったGさんは、「すみません、ちょっと考えさせてください」と電話を切り、「でもまぁ、手摺だけのことだし」と気を取り直して、も一度家のあちこちを見て廻りました。

玄関ドアは鉄製の枠に1枚ガラスという素敵なデザインで、でも透明ガラスなので道路から中が丸見えです。カーテンか何か工夫すればいいのだろと思ってふと足元を見ると、鍵が付いています。床の近くに鍵が付いているのです。へぇっと思ってドアを見回しても、他に鍵はありません。施錠した状態でハンドルを引こうとするとガタガタします。真ん中に鍵をつけて欲しいと監督さんに言うと、「タテガマチが細すぎて、ケースが入らないんですよ」と言います。Gさんには良くわかりませんでしたが、「どうしても無理なんですか?」と訊くと「メンツキ錠なら付けられるんですが、先生がOKなさるかどうか・・・」と言います。

奥行きの深いシステムキッチンの向こうに出窓があります。普通の引き違いではなく「すべり出し窓」と言うのだそうで、窓辺がすっきりして綺麗です。でも、妻には開閉することが出来ません。手が届かないのです。監督さんに「開閉はどうするんですか」と訊くと、「オペレータを付ければいいんですが、今からだと露出になりますんで、先生がOKなさらないんじゃ・・・」と言います。

家に帰って、気になったところをメモにしてH事務所にメールしました。

翌週のHからの返信にはこう書かれていました。「お申出の趣旨を生かすと、私のイメージからは大きく外れたものになります。変更されるのはご自由ですが、竣工写真撮影完了までお待ちください。なお、追加工事費用は▲万円で、これに私どもの報酬●%を加え■万円必要ですので念のため申し添えます。」

追加工事に設計監理報酬を請求することは、設計事務所にとってなかなか高いハードルであります。しかも、自分は了承できないからやるんだったら勝手にせぃ!と言いながらきっちり請求するなんて、同業として見習わなければいけませんね・・・なぁんて、んな事ないでしょ!

大阪市耐震改修支援機構の耐震化支援団体に登録されました

あけましておめでとうございます。
Agorasは、今年も頑張ります。

昨年暮れ、【大阪市耐震改修支援機構】の【耐震化支援団体】に登録されました。
これまでも、建物の耐震化に関するご相談に与ってまいりましたが、このたび大阪市の支援団体として登録されたことがきっかけとなり、もっとお気軽にご相談いただければいいなと思っています。
木造戸建住宅だけでなく、RC造・SRC造・S造、各種の構造専門家がお待ちしています。

相談会のご利用は無料です。
次回相談会は1月28日金曜日17:30からです。ご予約下さい。

建売住宅の欠陥工事の責任を取った設計者

Dさんがこの建売住宅に住み始めて数年経った頃、お隣から「お宅、ムシ湧いてんのんちゃう?」と言われました。お隣との境界付近を見てもムシは判らないのですが、駐車スペースにある独立柱の根元のタイルが落ちかけています。売主に電話しましたが一向に見に来てくれそうにないので、近くの工務店にタイルの貼替を頼みました。

気軽に来てくれた工務店のオヤジは「この柱、腐ってんのんちゃいまっか」と言い、一番下のタイルを剥がしにかかったところ、いとも簡単にタイルが、しかも下地から剥がれてしまいました。そして柱の根元が露わになったのですが、なんということでしょう!基礎がありません! 柱が土間に直接建てられていて、柱脚はすでにゴソゴソなのです。

オヤジは尚もタイルを剥がし続けました。土間から50㎝ほど剥がすと、別の柱が見えました。つまりこの柱の下部は継ぎ足されたもので、本来必要だった基礎立ち上がりが無いにも関わらず柱の長さは他の柱と同じだったので、宙に浮いた状態だったのです。そして現場は柱を継ぎ足し、基礎がないから土間に固定して、そしてコンパネを巻いてタイルを貼ったのです。

怒り狂って売主に電話しましたが、まったく埒があきません。憤懣やるかたないDさんは「訴えたる!」と弁護士に相談しました。弁護士は「訴訟するとしても被告の資金力を調べないと」と、Dさんに関係者の名前を調べてリストにするよう指導し、売主・建築主・設計者・監理者・施工者が判明しました。売主と建築主は同一の建売業者、設計監理は建築士事務所Eでいずれも現存していますが、施工者は、経営危機の噂のある工務店でした。弁護士は建売業者と工務店の資産を調査すると同時に、懇意にしている建築士Fに建築士事務所Eについて問い合わせました。

FはEとは面識がありませんでしたが、設計監理者として何らかの対応をお願いできないかと頼んでみました。Eは、独立直後の仕事で、監理するつもりがないのに建築確認上の監理者になったことを認め、自分の責任としてまず工務店に協力を要請しました。けれど工務店は経営的にそれどころではないとすげない返事です。でも建売業者が「考えてみる」と返事したので、建築士事務所EはDさん宅を訪れて陳謝し、改修したいと申し出ました。そしてDさんは、それまでの怒りの対象が建売業者だったのに、見ず知らずの設計事務所が動いてくれると言うので、ホントかな?と思いつつも「よろしくお願いします」と言いました。

建築士事務所EはDさん宅を詳細に調査し、改修費用を算定して建売業者に提出しましたが、想定をはるかに超える金額だったことから、工務店に責任を取らせようと、建売業者は前言を翻しました。けれど工務店の協力を得られる可能性が極めて低いことを説明すると、建売業者は「なんで、うちだけがかぶらなあかんねん!」と態度を硬化させました。Eはたまらず「自分も半額負担しますから」とまで言いましたが、建売業者はうしろを向いたままで、それ以上耳を貸そうとはしませんでした。

Eは、今では官庁の仕事をコンスタントに受注するようになり、スタッフも抱えています。ここでDさんに訴訟されると、せっかく軌道に乗った事務所に傷がつきますし、なによりも自分に「よろしくお願いします」と頼んでくれたDさんに申し訳が立ちません。一念発起して、E単独で改修することを決意し、懇意にしている工務店に協力を要請しました。工務店の社長はEの意気込みに感心し、利益を度外視して協力することを約束してくれました。

EはDさん宅を訪れて経緯を報告し、単独で改修することを説明しました。D夫人は仮住まいを用意して欲しいと言いましたが、Dさんが「ほんまはEさんよりも建売屋や工務店が負担せなあかんのに、それをひとりで被ろうとしてくれてるんや。協力したげなあかん!」と説得してくれました。

その後の改修工事は順調に進み、D夫人も現場にお茶を出してくれるなどわだかまりも無く工事を終えることが出来ました。

Eさんは、若い建築士です。いつもカバンいっぱいに詰め込んだ資料を持ち歩いて仕事しています。名義貸しをした事実は反省すべきことですが、そのことと正面から向き合って解決できたことは、仲間として誇りに思います。

新米の設計スタッフと新米の現場監督

前面道路が緩やかに傾斜している郊外地。3階建ての1階には駐車場があって、その奥に玄関。少しデザインを感じさせるAさんの住宅です。

傾斜道路の低い位置から駐車場に入るようになっているのですが、家相を気にする両親の意見で決めた配置ですし、設計事務所に設計を依頼し地元のしっかりした工務店に施工して貰ったので、水はけは問題ない様にしてくれているとタカをくくっていました。

引っ越してしばらくして大雨が降りました。2階の窓から見たら、前の道路を雨がサラサラと流れています。朝食を終えて出勤しようとしたとき、Aさんはアレッ?と思いました。玄関の床が濡れているのです。吹き降りの雨が入ったのかなと思ってドアを開けたら、ポーチには水溜りがありました。沓摺の外に、ひたひたと水が迫っています。駐車場とポーチにはレベル差はなく、ポーチと玄関には沓摺分の段差しかありませんから、道路を流れた雨が駐車場からポーチに流入したのです。道路には側溝もありますが、大雨を収容しきれなかったのでしょう。

工務店に電話したらすぐに駆けつけてきて、「土嚢を積みましょうか?」と言ってくれたのですが、その頃には小降りになっていましたので断りました。でも「これからもこんなことが続くんだったら困るなぁ」と言うと、若い監督Bが「設計の先生に言うたんですけど、まったく問題ないって言わはったんですよ」と言います。

Aさんは思い出しました。設計事務所に設計は依頼したのですが、予算の関係と地元工務店の施工だということで、監理は頼んでいなかったのです。でも、着工前後には工務店をきちんと指導してくれたと聞いていましたし、金融公庫の中間検査にも立ち会ってくれました。さすがにボス先生は地鎮祭に来てくれただけでしたが、若いスタッフを充ててくれていましたから、安心していたのです。この駐車場水浸し状態を予見できなかったのでしょうか?

結論から言うと、工務店が現場に乗り込んで最初に行なったレベル測量の問題でした。
設計事務所は、道路勾配がさほど大きくもなく宅地はフラットでしたから、レベル測量をしていませんでした。それで、現場監督がFAXしてきたレベル測量メモに基づいて、スタッフがGLポイントを電話で指示したのです。

Point1:スタッフは、一度も現場に来ることなく図面を作成していました。図面には宅地レベルを設計GLとして記載するのみで、道路や隣地の事は表現されていません。つまりこのスタッフは、緩やかな傾斜地であることを知らなかったのです。

Point2:現場監督は、測量結果を早く知らせようと、現場で作成したメモをそのままFAXしていました。道路の高い位置は1,200、低い位置は1,500、宅地は1,400という具合です。
スタッフは、実は新卒の入社早々で、レベル測量結果の見方を知りませんでした。数値の大きいほうを高く小さいほうを低く、つまり標高と同じように解釈していたのです。それで高低差を、真逆に判断したのです。そして現場監督は、設計事務所の指示だからと異論を唱えず、また会社に相談することもしませんでした。

これは工務店と設計事務所の少なくともどちらかが若手をサポートできていれば、回避できた問題です。後日、双方の協力で、宅地内の雨水排水処理を大幅に改善したと聞きました。設計事務所の法的責任がどうなのかは意見が分かれるところでしょう

新築住宅の、なぜか改修工事

物静かで上品な奥様。

北摂の住宅地に、有名ハウスメーカーに依頼して一戸建て住宅を建てた。神経痛の持病があり、ちょっと奮発して全館空調を頼んだ。

初めての冬が来て、床暖房もつけているけれどどうも冷えるなと思い、ハウスメーカーに問い合わせても、あまり良いとはいえない対応を繰り返すばかりだったので、空調機のメーカーに電話したらすぐ来てくれた。機械の調子はどこも悪くないといい、「断熱性能が悪いんじゃないですかねぇ」と言って帰ってしまった。

そのとき気付いた。建てる時に頼んでいた性能評価はどうなっているんだろう?

またハウスメーカーに電話して尋ねると、「そのようなお申込は頂いておりません」という。彼女は、海外で所帯を構える娘にこの家を残したかった。というより、自分が死んだら娘がこの家を売ればいいと考えていた。それで、資産価値を高くしておきたかったから、性能評価を依頼したつもりだった。

ハウスメーカーから「今となってはどうしようもない」といわれたが、諦めがつかない。折り良く来た銀行の外交に相談したら、数日後、カラー印刷の書類を持ってきてくれた。
「インターネットで調べたら、こんな会社があるんです。性能評価がどぅのこぅの書いてあるようですし調査もしてくれるようですから、一度話を聞いて見られたら如何ですか?」

電話したら、1週間ほど後に来てくれた。銀行の外交が見せてくれた書類に出ていた××先生らしい。
なにやら沢山の機材を持ってきていて、あちこち色々調べてくれている。彼女が抱いた疑問は空調と断熱のことなのに、外部にも随分時間をかけて調べている。ほぼ一日がかり。
作業を終えたようなのでお茶の用意をしていた彼女に、××先生が「随分傾いていますね」 いきなりそう言った。
「この家、傾いているんですか?!」驚いた。
「まず、外壁が傾いています。それから床も。このまま放置すると危険です。改修させないといけません」
「でも、まだ1年も経っていないんですが」「そんな事関係ありませんよ。瑕疵のある住宅は、すぐに傾く例もあります」
「でも、今までまったく気付きませんでしたけれど・・・」
「若い方なら敏感ですけれどね、まぁ個人差もありますが、これは酷いですよ」
頭が真っ白になって立ち尽くす彼女の前で、調査につれてきていたスタッフらしき人間達と小声で話している。
「よく、僕のところにお電話をいただけた。僕でよかった。他所の連中だったら発見できなかったと思うよ」
狐につままれた気分で、コーヒーを勧めた。
「僕のことを、どこでお知りになったのか知りませんが、よくご連絡を頂いたことです。この家の瑕疵はなかなか難しい。」
「瑕疵・・・ですか!」
「でも、僕は瑕疵調査に慣れていますからね、僕の目はごまかせないんですよ。早急に改修させないといけませんよ」
「でも、改修させないといけませんって仰られても・・・」
「この家は○○ホームですよね。僕はあそこの役員と懇意にしていますから、交渉してあげましょうか。何度かこの会社の瑕疵改修を指導しましたが、僕の言うことだったら聞いてくれます。」

なんて親切な人だろうと感激し、「お任せします。よろしくお願いします」と依頼した。

しばらくたった土曜日、東京からその役員がやって来た。
「平日は会議ばかりでなかなか会社を出られませんで、遅くなりました」と丁重な挨拶の後、「××先生からお話を聞いてびっくりしました。弊社のお客様にこのようなご迷惑をおかけするとは、誠に申し訳ございません。すぐにでも改修させていただきます。」
彼女には、家が傾いているといわれても未だに分からなかった。ただ暖房がきっちりできればいいのだけれどと思ったが、役員が、しかも東京から飛んでくるというのは並大抵の問題じゃないのだろうし、皆が大問題だというのだからそうなのだろうと、自分を納得させた。
「僅かな間ですが、仮住まいに引っ越していただかないといけません」
「えぇっ!引っ越すんですか!」
「お住まい頂いている状態ではなかなか難しいものがあります。それに危険ですしね。どこかお心当たりはお在りですか?」
「はぁ。近所に今まで住んでおりました家がそのままで」
「そうですか、では出来るだけ早く引っ越していただいて・・・」
横で聞いていた××先生が「僕がきっちり指導しますから、ご安心下さい」という。
「で、どれくらいかかるんですか?」
「ま、3ヶ月くらいでしょう」
「3ヶ月も!?」

引っ越してすぐに工事が始まったようだ。お医者に薬を貰いに来たついでに寄ってみたら、家の周囲にぐるっと足場とシートが設けられていて、中の様子は分からなかった。静かなので、今日は作業は休みかしらと思ったが、危険だと聞かされていたので近寄らなかった。

約束どおり3ヶ月程たって完成した。東京からまた役員が来て、
「永いことご苦労をおかけしました。今度は完璧ですから、安心してお住まい下さい。いや、完璧というより、以前より高性能になったかもしれない位ですので」
「ご親切に有難うございました。費用のほうはどの様にさせて頂いたらよろしいのでしょう?」

「何を仰るんですか。ご迷惑をおかけしたのは弊社ですから、費用をご負担いただこうなどとは考えておりません。」
「でも、なんだか大工事だったみたいですし・・・」
「いやいや。本来なら、仮住まいや二度のお引越し費用もこちらでご負担しなければいけませんのに、甘えさせていただけるだけで充分です。」
「でもそれでは・・・」
「いや本当に。こんなことがマスコミに知れたら、下手をすれば事業本部長の首が飛ぶかもしれません。その前に、××先生に厳しいご指導を頂くことができましたので、私共としては大変ありがたいことだと思っております。」
「でもそんな訳には・・・」
「そこまで仰っていただけるんでしたら申し上げますが、・・・。××先生のことなんですが、弊社からは勿論ご指導いただいた費用をお支払いたしますが、奥様からも何がしかの御礼をしていただけると有り難いのです。なにしろあの先生は瑕疵の調査に関しては第一人者で、でも消費者の味方だと仰ってボランティアで動いておられましてね」
「それは勿論させていただきます。でも如何ほどお支払したらいいのかわかりません。教えてくださいな」
「そうですねぇ、先生が現場に来られたのは週一度ですが、その間に弊社の現場監督に先生の事務所でご指導いただいておりますので、ざっと月8回。これが3ヶ月ですから24回ですね。」
「24回と言われましても、1回如何ほど・・・」
「若手でしたら5万円くらいでしょうが、××先生ほどになると・・・もぅ少しお高いんでしょうなぁ。しかしね、弊社からきっちりお支払いたしますので、奥様はお気持だけでいいんじゃないでしょうか」
「承知いたしました。」
「あの先生にこうして弊社の瑕疵を見つけていただいたから、奥様にも穏便に済ませていただけたわけで。こんなことがマスコミに漏れたら、うるさいですからねぇ。特に最近は株主がねぇ・・・」

という次第で、彼女はこの家に戻ってきた。
隣の奥さんが「どうしてたの?」と聞いたが、役員が言っていた「マスコミに漏れたら・・・」が気になり、詳しくは語らず「ちょっと工事してもらってたの」とだけ言った。
「そぉ。足場が出来てたからね、外壁でも取り替えるのかしらって主人と話してたんだけど、外壁は・・・替わってないよねぇ。」
「えぇ、外壁じゃないのよ」
「そぉか、内部をさわってたんだ。でもさぁ、最近の工事って凄いよね」
「何が?」
「昔はさぁ、ちょっといじるって云っても凄い埃と音だったでしょ。でも静かだったわよ。工事やってるなんて思えなかった。」

元通りの生活に戻った。
内外装の色味は以前と寸分違わない。照明器具も全て元通りに設置されている。あんな大工事をやったなんて信じられないくらい。さすが大手メーカーね。
次の秋が来た。全館空調をONにしとかなきゃぁとスイッチを入れた。でも今夜は冷えるな。
翌日も、冷えがこたえた。空調、効いてないわ。また空調機のメーカーに電話した。といっても今度はメンテナンス部門だ。すぐ来てくれた。
「前回訪問させていただいた時の記録には、断熱不足の可能性有りと書いてあるんですが。」「えぇ。でもね、大改修して下さったから、もう大丈夫だと思うんですけれど・・・」
「大改修?」
「そうなんです、ここを建てたメーカーがね、無料で大改修して下さったんですよ。」
誇らしげに言った。
しかしそのメンテナンス担当者はきょとんとした表情でこぅ言った。
「断熱不足というより気密の不足ですね」
「気密って?」
「隙間風が無いという意味です」
「それなら、外側を足場ですっぽり覆って改修してくださったんですから・・・」
「どこを改修されたんですか?」
「どこって・・・」
「ほら、ここに手をかざしてみてください。風を感じるでしょ。隙間風でしょ」

同窓会で、弁護士をやっている同級生に出会ったので、一連の不思議を話した。弁護士は「俺は建築はわからん。建築士に見てもらうといいよ。」と、知り合いの一級建築士を紹介してくれた。
一級建築士は、弁護士から詳しい話を聞いていなかったので、最初に1時間ほど、いきさつを話した。
「傾いていたの?」
「そう言われました」
「あなたは傾きを感じていなかったの?」
「私、鈍感らしくって」
「今は直ったの?」
「そう仰ってました」
「どこが傾いていたって?」
「外壁も床も・・・って」
「ふぅん」と云いながら、建築士は水準器という物差しを床に置いた。
「うん、少しだけ傾いているかな。でも傾きというより波うちかもね」

今度は壁に当てて、
「壁もちょっと歪んでるかな?」
外に出て、三脚のついた機械で外壁を見ている様子。
「外壁も極僅かに傾いているけれど、施工誤差の範囲かもね」
と云いながら、外部をぐるっと廻って観察した。
「基礎も異常ないし、一体どこを改修してもらったの?」
「・・・?」
「改修工事に3ヶ月掛けたんですよね。でも基礎も外壁もさわった風には見えないし、屋内も、歪んでるといえば歪んでいて、つまり改修した痕跡が見えないです」
「はぁ・・・?」
「建築の瑕疵以外の問題があったかもしれないですね。弁護士さんに報告しときます。よく相談なさったほうがいいですよ」
と言い残して、建築士は帰った。
「建築の瑕疵以外の問題があった・・・?」
彼女は釈然としないまま戸締りをし、床暖房を高温に設定して夕飯の支度にかかった。

最近のリフォーム被害

数年前から、主に高齢者をターゲットとしたいわゆる「悪質リフォーム被害」が頻発し、警察が動くようになったものの、手を変え品を変えた巧妙な犯罪として今も続いている。しかしかつてあったような1000万円超の被害は少なくなり、最近は、毒にも薬にもならない建材や装置を設置し、数十万円をせしめるという手口に変化している。当初は民間レベルでの解決が多かったが、詐欺被害として立件されるようになって、この手のご相談が私たちの元に持ち込まれる事は少なくなった。

ところが、景気の低迷とエコ意識があいまってか、大規模なリフォーム被害が目立つようになってきた。

ある賃貸マンションでは、外気に開放された共用廊下の手摺を除去して外壁を設けたが、あろうことか木造で施工されてしまった。しかも一般的な木造住宅の外壁と比べてはるかに性能が低く、まるでバラック小屋の外壁である。高層建物に当然必要である耐風圧も耐火性能も無い。第一、開放廊下の開放性をなくしたのだから、それだけで不適格建築物に成り果てた。

ある店舗では、道路から1mほど上がる階段をスロープに変更した・・・までは良かったが、無計画に施工したので道路にはみ出てしまっている。ご近所が行政に通報し、新規開店の店舗としてはマイナスイメージからのスタートとなってしまった。

ある住宅では、タイル貼りのALC外壁を穿って大きな窓を設置したが、サッシが大きく歪んで固定されており、室内側にある額縁が一見して解るほど斜めになっているし、大きく損傷したタイルが剥がされて、左官で再現されているとはいえ非常に見苦しい。

これら業者は、建築工事の知識も実績も無いにもかかわらず、いかにもまともな工務店ヅラをして受注し、発注者が内容を確認する余地を与えず請負金額を早期に回収する。その後で工事内容に文句を言うと開き直り、追加工事と称して高額な請求をしてくる。ある業者などは「建築基準なんか知らんがな!」或いは「ここまで安い金額でさせといて、よぉそんな文句つけるわ!」と言い放つ。

発注者は、いずれも裕福な知識階級の人たちなのに、いやそうだからこそか「安くさせてるんだから」と、逆に恐縮している場合がある。追加請求に応じたらキチンと直してくれるかもしれないと今でも思っている節すらある。

何より残念な事は、そこに建築士や建築士事務所が介在していなかったことである。

建築士が全て善人とはいえないし、優秀ともいえない。が、フツーの建築士事務所だったら、安全性にかかることや違法行為については少なくとも一言は注意喚起するだろう。被害を受けた彼らには、建築士に相談しようという発想は皆無だった。行政や消費者センターや弁護士に相談して、はじめて建築士という存在に気づく。しかし覆水は盆に返らない。

火災のご報告とお見舞いお礼

金曜日(26日)の夕刻、事務局があるビルで火災がありました。

このビルは、3階までが店舗やオフィスで4階以上がマンション。その6階住戸からの出火です。

ちょうど定例相談会の日で、皆相談会場に移動していたのですが、私は6時予定の来客に備えて待機していました。6時少し前になって、消防車のサイレンと鐘で谷町筋が凄く騒がしくなり「何処やろ?」と窓から通を眺めると、1階の店舗から店員さんが出てきて真上を見ています。でも事務局の窓から上を見ても何もわかりませんでした。「下へ降りて訊いてみよ」と出ようとしたところに、予定していた来客が現れ「センセ、このビル火事でっせ!」

でも警報も何も聞こえていませんでしたのでフツーにお話を始めたら、5分ほどして館内放送があり「避難して下さい」と言われ、PC電源をoffにして貴重品だけを持ち出し避難しました。

エントランスから谷町筋に出ると、すでに車道も歩道も消火ホースがメチャクチャに広がっていて、目の前の信号も封鎖され、遠回りして谷町筋の対側へ廻って建物を見上げると、6階バルコニーの内側から大きな炎が出ていました。出火元の真上に当たる7階から9階の手摺壁は既に真っ黒で、はしご車3台で消火活動しています。

このビルはSRC造で、勿論耐火建築物です。事務局がある3階とマンションのある4階との間には「M4階」という吹きさらしの空間があるので、上階の火災が下階に延焼するという事は考えられません。結構平常心のまま避難したわけで、「バルコニーの手摺がアルミ格子だったらもっと激しい火災になったかもしれないな」とか「31mという高さ基準と消防車との関連」を改めて実感したり、6車線の車道と歩道がある広い道路の対側から消火活動を眺めていられることのありがたさを痛感しました。

まさしく「対岸の火事」・・・ん?・・・ちがうちがう。私が対岸に避難しただけの話で、実際はすぐ上の火事だったんだ。

今後手がけるマンションに、この経験がどう影響するか、他人事のようだが楽しみではある。

末筆で恐縮ですが、ご心配戴いた皆様に心よりお礼申し上げます。Agoras事務局は、何の被害も無く通常通り運営しております。

豪華マンションの地下漏水

とてもバブリーなマンションだ。下町の一角に、そこだけ別世界のよう。
まさしくバブルの頃に販売されたからもぅすぐ10年(相談時)。最初はオクション。超有名お笑いタレントが最上階に住んでいたとか。最上階は、その下の階の2戸分が1戸になっていて、住戸内に中庭まであるらしい。

エントランスにはホテルのようなフロントがあり、管理会社が常駐していて外来者をチェックしている。名乗ると「お待ちしておりました」と、丁重に招じ入れられた。奥は、立派なロビー。本革張りのソファセットが4セットあって、BGMも流れている。すぐに数人の理事が現れた。名刺交換してロビー奥を見ると庭園?・・・かと思ったが、かつて庭園だったろうと思わせる残骸。「これが問題かも」と依頼者。

挨拶もそこそこに一緒に元庭園に出てみた。穏やかな冬日和。空が明るい。奥の隣地境界沿いにはケヤキの高木をはじめ、まぁまぁの植栽が育っている。が、うぅ~ん、これって庭園じゃないよね。っつうか、造園計画無しに樹を植えただけという印象。

造園計画無しに植栽を設けるということは、建築計画無しに建物を建てることと一緒だよね。勿体無いなぁ。・・・

それでも土地柄からすれば贅沢な戸外空間。これでちゃんと造園家が関わっていたら、素敵な庭園になっただろうになぁ、そしたらこのマンションも、もぅちぃっとゆったりした雰囲気が持てたかもしれないし・・・と意匠屋根性が頭をもたげる。

ロビーの庭園側はピロティになっていて、これに半分掛るように、でっかい異物がある。地盤から80cm位の円形の立ち上がりのある邪魔物。「これが問題かも」と、また依頼者。

かつては噴水だったそうだ。入居が始まってから初めての冬に水道を止め、総会で水を抜くことを決めた。何故って、水道料金にびっくりしたから。上水道を垂れ流していたそうだ。「9年間このまま?」と訊くと「なかなか撤去できないんですよ」。

ロビーに戻って竣工図を見せてもらった。あれっ、地階がえらくでかい。ん?・・・そっか、元庭園の下にも地階があるんだ。えっ? 噴水の下にも地階が? 「そうなんです。地下駐車場が。」

案内されて地階へ。広い。機械室以外全域が駐車場で2段式。各戸1台以上確保されているらしい。へぇぇって感心してたら、キィッと車が出て行く。ジャガーだ。入れ替わりに入ってきた。BMだ。よく見たら、キャデラック、ベンツ、しかもその中でも高そうな車種ばかりが並んでいる。

地階の薄暗さに眼が慣れてきたら、あれ、天井スラブから金属トレイがぶら下がっている。「パン」だそうで、空調ドレイン管のような排水ホースもつながっている。しかも、あちこちに。

このマンションは、入居以来ずぅっとこの地下駐車場の漏水に悩まされている。
施工者は中堅ゼネコン。電話すればすぐに駆けつけるし、年に数回は様子を見に来るという体制を採っていたが、さすがにここ2~3年は間遠になり、電話しても動きが鈍くなってきた。

そして管理組合に対して曰く「パンを、今のように仮設的にぶら下げるのでなく恒久的なものにさせて頂く」と。

理事会は「瑕疵担保期間が満了するから、これで勘弁してくれということなんでしょうがねぇ・・・」と当惑している。

ちょうど大規模修繕の時期に近づいている。「その工事を発注したら、根本的な改善をしてくれそうな気配もあるんですが、何がいけなかったのか原因も言ってくれないので、云うとおりにして大丈夫かどうか、信用できないんです。」漏水といえども、雨の日に漏るんじゃない。

雨の数日後、水とともに白華が垂れてくるのだ。駐車場奥の外壁を見て頂戴と案内された。確かに激しい白華が見られる。そして数箇所の注入痕も。でも今は別のところから垂れている。
管理会社の人が「パン」を外してくれた。白華の塊と若干の水滴。雨が降ったのって数日前かな。「水滴は結構長く続くんですよね」 それにしても汚い。地下駐車場ってそもそも雰囲気よくないし、蛍光灯の青暗いあかりに照らされた打放しとモルタル。そしてなんとなく湿気っぽいにおいまで。

管理会社の人が「昨日見つけたんですが」と別の場所に移動した。空いている2段駐車の天井に、新しそうな白華。理事長が尋ねた。「ここ空いてる区画ですか?」「いいえ、○○さんの区画です」理事長の表情が変わる。「えぇっ。○○さんって・・・あの人の車、確か1千万以上するんじゃぁ?」「そぅですよ! 日本に数台しか無いって聞きましたよ」「えらいこっちゃ! すぐにパンつけて貰ぉ!」「最近は電話してもねすぐには来てくれないんです」「じゃぁ、ともかく区画を替わってもらいましょう」「・・・○○さん怖いんです」「判りましたよ、私からお願いしてみます」

「パン」を設置するまでに、白華の被害で、既に数台の車に弁償しているとの事。幸か不幸か国産車ばかりだったので、さほどの金額にはならずに済んだそうだが、今回は違うと怯えておられる。

理事会では、ゼネコンに防水のやり替えをさせようという考えだったらしい。ちょうど大規模改修の時期も近いし、基本はゼネコンの負担で、それに修繕積立金をちょっとonするって言えば、ゼネコンも納得するかもしれないし・・・。

「理事長。最近ゼネコンは高姿勢ですよ。」「そんなこというても、雨が漏るのはゼネコンの責任でしょ」「それはそうなんですけどね、営業会議でね、この建物の大規模改修は『いらん!』って方針になったらしいんですよ。」「どぅいぅこと?」「勿論正式の話じゃないんですけど、10年経って担保期間が過ぎたらこの建物から手を引こうというつもりらしくて・・・」

揉めたらしい。凄く凄く揉めた・・・らしい。

「ピロティと庭を全部やり変えてもらったら、防水も全部ちゃんとなるんでしょ。」
「うちは以前からの車にまだ乗ってますけど、これじゃぁ新車には買い替えできませんよ。」
「△△さん、車から荷物降ろしてるときにポタッときたそうですよ。」
「えぇっ!荷物に?」
「いいや、服に」
「管理組合からすぐに謝りに行きましたよ」
「弁償は?」
「普段着だから、いぃって」
「ゼネコンは?」
「そりゃぁ謝りに来ましたよ」
「ピロティやり替えるんだったら、その時に噴水も取ってしまえばいい。」
「ここのお庭ってなんか暗いですよね。」
「イングリッシュガーデンになればいぃな」
「それって、大工事ですよ」
「いぃじゃないですか、どうせ子供達もあまり外に出ないんだし」
「そうよね、友達のマンションなんかお花見やクリスマスや、それから七夕も」
「ガーデンパーティができるようなお庭がいぃな」
「せせらぎがあれば蛍が・・・」
「街中なんだから無理ですよ」
「せせらぎ作ったら噴水と一緒やん。水道代高いよ」
「噴水は駄目よ」
「管理人さん、空っぽの噴水の中の掃除が大変だって」
「やっぱりイングリッシュガーデンよ」
「だれがお庭の世話するの?」
「管理人さんか・・・専門の人いれてもいいじゃないの」
「お庭が綺麗になったら、資産価値上がるかなぁ?」
「これだけ迷惑かけられてるんだから、ゼネコンにちゃんとやってもらいましょうよ」
「あんなトコ、任しておいて大丈夫?」
「でもまだ担保期間なんでしょ」
「せやけど動きよれへん」
「云うだけ云わんと」
「云うてますよ!」

結局のところ、殆どがオクション購入者だから、「逃げに掛かってるようなゼネコンだから、アテにならないよ」という意見が大勢を占めた。大変な工事になるから、道路から改修工事をやっている様子がわかる。下手をすると「瑕疵マンション」と云われて資産価値が更に下がるんじゃないかという意見も出てくる。ただでさえ買った時の半額に落ちているのに、これじゃぁ売って引っ越すことも出来なくなる・・・と、・・・結局金持ち喧嘩せず。

けれど漏水があることは事実で、このまま「お構い無し」とするには少々気持が収まらないという雰囲気は残り、いくばくかの賠償金を払わせて、あのゼネコンとは手を切ろうということになった。

手続としては、訴訟提起。すぐに付調停になって、そこで出てきた話だが・・・

防水業者がしっかりしてたら、ゼネコンも、も少しマシな対応ができたのだけれど、この建物竣工直後に倒産してしまった。現場所長に訊いたら、「非常に特殊な防水で、訳が分からんのです」という。「何故普通の防水にしなかったのか」と問いただしたら、「その防水業者がメーカーと一緒になって強力に営業を掛けてきて、メーカーは新開発の商品だから原価でさしてもらうと云うたから」と。メーカーが先に倒産して、あとを追っかけるように防水業者も倒産した。新開発の商品だということで、詳細な情報も今となっては得られず、ゼネコンとしては窮している。「正直に申し上げれば、今考えられることは1階スラブ上の防水を全てやり変えることですが、そんなこと会社には云えませんし・・・vv;」

勿論、訴訟提起までに簡単な調査は行なったが、現場所長が「訳分からん」というものを簡単な調査で明らかにすることなんぞとても無理。

影響なさそうな部位で押さえコンクリートをはつってみたら、ゼリー状の層が出てきた。手に取ると意外とさらさらしていて、粘性もない。まるでお粥。分厚い押え層に押し潰されているところもある。これで防水にはならんやろ!と思っても、調べようも無かった。ゼネコンはそれなりの会社で、まさか「訳分からん」とは!

管理組合側は、どうせ大規模改修の時期だからとあまり高額の賠償を要求せず、早期に和解が成立し、その後3年程度で予定通り大規模改修工事を行なった。訴訟に携わった住人は、そして誰も居なくなった。

やっぱり、金持ち喧嘩せず・・・かな。