マンション漏水騒動顛末記

築後10年になろうとしているマンション。4年目から最上階住戸の一部に漏水が発生し、施工者は即座に補修に動いた。が、漏水は収まる気配を見せなかった。

今回は、この漏水事故が収束するまでの顛末記である。
最初の漏水からすると、解決までに5年を要した。この間、管理組合にも施工者にも種々の混乱があった。紆余曲折という言葉とは程遠い壮絶な経過を乗り越え、収束にこぎつけられた双方関係者のご努力に、心から敬意を表するものである。

なお、この文章は15,000字と少し長いが、ご容赦願いたい。

【漏水の発覚】
最上階住戸の一室。
新築4年目晩秋の深夜、ポタポタという音で目覚めたA氏が、天井照明のスイッチをONした。器具はガラス製の上向きの皿状で、内蔵されたサークラインの光が、一部はガラスを通して下に、また一部は天井面を照らして反射光が得られるというもの。眠い眼をこすりながらガラスの皿を見上げると、そこに褐色の液体らしきものが溜まっていてポタポタ音の都度揺らいでいるように見える。
「まさか・・・?」とは思ったが、椅子に昇って器具をはずした。少し重みが感じられる。妻も起きてきたので、洗面器を持ってこさせ、皿に溜まった液体を空けた。ウーロン茶と見紛うものだった。

【初期段階】
A氏は翌日管理組合に漏水があったことを告げ、管理組合は施工者に連絡した。
連絡を受けた施工者は現場に急行し、屋上露出防水のパラペット立ち上がり部分のコーチングの劣化を疑った。ここから防水層内部に雨水が浸入し、屋根スラブのクラックを通過して天井に到った・・・と。
A氏も管理組合も早期の補修を希望し、施工者の推測に基づいて、下記の補修が行なわれた。
・ 防水層ジョイント部の隙間にシール材充填
・ 立ち上がり端部にシール材充填
・ ドレイン周囲の防水層を切開し、排水状況を確認
ウーロン茶様の液体については、施工者が検査機関に分析を依頼した。報告された分析結果は「鉄などの金属化合物が少量含まれる可能性はあるものの、特定には到らなかった」というものだった。管理組合は、液体の褐色が鉄筋の錆び色に起因するのではないかと心配していたが、一応は払拭された。

【再度の漏水】
翌年(新築後5年目)の梅雨の初め、再度漏水があった。施工者はすぐに調査し、横引きドレインの下端に空洞を見つけた。(※)
※ この建物ではパラペットの外側に庇があり、横引きドレインは屋根の雨水を庇に排出するための連通管だった。図面上、庇の水下(鼻先)は屋根スラブ水下より50mm低く設定されていたが、これではドレイン下端と庇の水上はほぼ同面にならざるを得ない。
施工者は、一旦庇上に排出された雨水がこの空洞から屋根面に逆流したと推測し、この空洞にシール材を充填した。
この調査で、クラックだけでなく電気配管のエンドからの漏水も確認していたが、防水層の補修とドレイン空洞部の充填で、漏水は解消できると判断していた。2度目の漏水であることから、今後の経過観察のために天井点検口を設け、念のため、天井内部にまさかの漏水を受けるトレイを置いた。

【3度目の漏水】
秋になって、A氏宅で三度目の漏水があった。
施工者はその日のうちに現場に赴いた。天井内に設置していたトレイには水が溜まっていたが、屋上の防水層やドレイン周りを点検しても不具合は見られなかった。つまり、「よくわからない」状態ではあったが、
・ 露出防水のジョイント部に増し貼りし、
・ 改修ドレーンを設置し、
・ 屋根スラブのクラックには、室内から樹脂を注入
という方法で補修した。

【B氏宅で漏水】
2年後(新築後7年目)、A氏宅から数軒隣のB氏宅で漏水があり、ここでもウーロン茶様の液体が採取された。連絡を受けた施工者はその日のうちに現場に行き、応急措置として屋上にシート養生した上で改めて調査したが不具合は発見できなかった。つまり、A氏宅三度目と同様「よくわからない」状態だった。
このときの液体は、雨水と共に分析に掛けられた。ウーロン茶色の漏水は雨水と比較すれば多少鉄分が多いものの、鉄筋のさびと特定されることは無かった。管理組合は独自で他の分析機関にも依頼したが、分析結果は変わらなかった。
施工者は「漏水の原因となった可能性のある範囲すべてを補修する」と提案したが、管理組合がすんなり了承することは無かった。

【A氏宅で4度目の漏水】
その年の暮れ、A氏宅でまた漏水があった。
これまでと同様、施工者はすぐに現場に駆けつけて調査したが、「よくわからない」状態に変わりは無く、B氏宅と同様シート養生するのみで終わった。

【管理組合の反発】
A氏B氏をはじめとして管理組合は、これまでのような単純な目視調査ではなく漏水原因の根本的な調査を求めた。
これに対する施工者の回答は、漏水箇所の天井に点検口を設置した上で、
・ ドレイン部など浸入個所と疑われる部位で、着色水による水張り試験
・ 立ち上がり部分への散水試験
・ 散水後、赤外線撮影
という方法で調査させて欲しいというものであった。
この調査手法について説明を受けた管理組合には、それまでの経過の中で「屋根スラブのクラックを放置しておいて良いものか?」との疑問が浮上していた。にもかかわらず、施工者の提案は、あくまで「漏水」の原因を究明することを主眼としていた。
・ 雨水の浸入を食い止めることが出来れば、躯体にクラックがあったとしても漏水には至らない。
・ 漏水の原因はあくまで防水の不備にあり、躯体の問題とは別である。
また補修方法として、
・ 屋根スラブのクラックは下面からの補修が可能である。
・ 屋上全面にカバー工法を実施する。
を提案した。

区分所有者の中には建築関係者も少なからず含まれていたが、ご他聞に漏れず彼らが積極的に発言することはなかった。
管理組合は激しい混乱に陥った。実のところ、完成直後から外壁にクラックが見られ、施工者は補修に応じていたのだった。疑心暗鬼が働いて、もし外壁と同じくらいのクラックが屋根にもあれば、何度防水を補修しても根本的な解決にはなり得ないのではないかという意見が強くなって、気持ち的には「漏水は、スラブのクラックが原因に違いない」という方向に傾いていた。構造躯体の問題として訴訟提起を求める区分所有者も複数あり、「取り壊し建て替え」という発言まで出る始末となった。
更に、施工者がカバー工法という補修方法を提案したことが、スラブクラックの隠蔽が目的ではないかと更なる疑念を招き、防水層を全面撤去した上での調査を求める声も徐々に大きくなった。

【弁護士の意見】
この頃、管理組合は施工者との話し合いと区分所有者間での意見調整に疲れ果て、弁護士を介在させるようになった。
弁護士は、
・ 躯体のひび割れは、構造強度を保持できない程度に到っていなければ、漏水との関係で瑕疵に当たらない可能性が否定できない。
・ もし漏水ではなく躯体強度を問題とするのであれば、管理組合の費用負担で調査し、論拠を持って主張する必要がある。
・ 現状の防水層は、素人目にもひび割れや捲れが目立つことからすれば、「漏水は防水層の問題である」とする施工者の主張を直ちに覆すことは困難である。
・ カバー工法を否定し、漏水経路の検証を行なうことなく現状の防水層を撤去することは、どのクラックが漏水の元となったか特定できない恐れがある。
・ 施工者が、クラック調査を行なわないと言う意見で固まった場合には、これを覆す事は現状ではできない。
・ 訴訟提起するとしても独自調査を行なわない限り立証不足に陥る公算が高く、交渉より良い結果を得られるという保証は無い。
と分析した上で、
・ 梅雨までにカバー工法による補修を行なう必要性は高い。一旦防水を補修した上で、改めて漏水しないことの調査を行なうということも、選択肢としてありうる。
と意見した。

【強硬派の軸足】
管理組合の大勢は訴訟を否定していた。漏水不安の早期の解消を求めていたし、何よりも訴訟による資産価値の下落を懸念していた。だから、弁護士の意見に同調する向きも多かったが、強硬派の声は圧倒的に大きく、結局この弁護士は更迭された。
管理組合強硬派の軸足は、構造欠陥の疑いにあった。完成直後から外壁クラックが見られていた状況に加えて、最上階住戸の漏水が「躯体の施工不良」を強く匂わせたのだ。
敷地内空地や道路環境から、躯体工事の困難さは容易に推測できる。だから、強硬派たちがいう「シャブコン」の疑いはわからない訳ではない。それならそれで、調査手法が無いわけでもない。
しかしこの懸念は単なる「疑い」の域を一歩も出ておらず、建築工学的には構造欠陥を疑うに足る具体的な要素は無い。建築士の立場からすれば、躯体の施工不良を探すために調査するということには、大いに違和感がある。

【理事会の新方針】
管理組合の理事会は、混乱の極みにあっても一定の冷静を失ってはおらず、区分所有者の多くの心底にある「躯体に関する不安」を無視することは無かった。同時に、風評による資産価値の下落に対する配慮も忘れてはいなかった。
これまで寄り添ってくれた弁護士を更迭する羽目になった理事会は、早々に新たな弁護士を選任した。
強硬派と構造不安への対応を理事会単独で行なうには無理が大きすぎた。いずれも、論理性の中で乗り越えなければならないと判断したのである。

【新たな弁護士】
新たな弁護士は若く、しかしその分パワフルだった。かつて担当した建築事件の経験を生かすことは当然だったが、マンションの管理組合という新たなジャンルに対する意気込みは十分で、これまでの経緯を精査し、理事会との協議を重ねて、論理の構築という正攻法を選んだ。
管理組合が先の弁護士の意見を排除したことによって、施工者との話合いは一旦頓挫し、防水は補修できず、自ら求めた「漏水の根本原因を探る調査」も行なえず、結果的に躯体不安は残存したままだった。
「防水にしろ躯体にしろ建築工学的問題であって、疑心暗鬼かもしれない得体の知れない不安感が管理組合を右往左往させている」と判断した弁護士は、「漏水の根本原因を解明するための調査方法の立案」を、「構造躯体に関する瑕疵の可能性を否定しない」という条件を加えて、建築士に依頼した。

【建築士の動き】
竣工図書は、アルバム製本の状態で管理事務室に保管されていた。しかし同様に保管されている施工図との乖離が見られ、また意匠図と構造図との間にも乖離があった。つまり、建物の状況は、肝心のところがサッパリ掴めない状態だった。
施工者との関係は決して良好とはいえない状況に陥っていたから、資料提供を望めるわけが無い。
結局、ある程度は理詰めで検討していくしか方法が無かった。

漏水原因として考えられる限りの可能性を列挙し、それぞれについて真偽を判定する調査手法を検討し、レポートとしてまとめた。
建築士のスタンスの基本は、下記のとおり。
防水層があれば、基本的にはその防水層の端部に口が開いているかまたはどこかに孔が開いていて、これが雨水の浸入口になる。浸入した雨水は防水層の裏面に廻り、防水層と屋根スラブの間に空洞があればそこを流れ或いはそこに溜まる。そして躯体に孔があればそこから室内に流入し、ここで「漏水」となる。
雨水の浸入口は、多くの場合防水層にできた「穴」であり、室内への流入口は屋根スラブの「穴」であって、どちらか一方のみでは「漏水」とはならない。防水層が仮に破断していたとしても躯体が密実で穴が無ければ、雨水はスラブ上部に滞留するのみに留まる。
つまり本件建物には、【防水層に隙間が生じていることに加えて、屋根躯体に穴が生じている】のである。
実のところ、その一年ほど前に、施工者からも「調査要領書」が数種類提出されていたが、いずれも屋上からの調査に限定したもので、住戸内に立ち入るのは目視確認のみだった。
これに対して建築士のレポートは、「構造躯体に関する瑕疵の可能性を否定しない」という条件下で、住戸内天井の撤去を避けることは出来ないと判断していた。
建築士が最も大きな懸念としたのは、竣工図と施工図・或いは意匠設計図と構造設計図の相違で、
・ 屋根スラブについて、意匠図ではスラブ勾配であるのに対して構造図では増し打ちによる水勾配
・ 最上階の電気配線は、設備設計図では流しケーブルであるのに対して設備施工図では打込配管
など、屋根スラブ躯体に疑問を抱かせる点があった。それで、件のレポートに付された「調査フロー」には、「構造調査に移行する」というフレーズが散見された。

【施工者の反発】
建築士のレポートを受けて、施工者は、案の定大きく反発した。
コンクリート構造物である限りクラックは避けられず、勾配が十分であったとしてもコンクリート躯体だけで漏水を防ぐことは出来ない。漏水に関して、躯体の問題は二次的なもので、主な原因は防水にある。
うがった見方をすれば、論点を躯体からそらせたいとも受け取れる反論で、この姿勢が、管理組合の疑念を更に招いた。
施工者と建築士の協議は数回に及び、果てには施工者から「あんたらマンション知ってるんか」という発言まで飛び出す始末で、信頼関係の構築などとんでもないと言う雰囲気に陥った。同席している双方の弁護士が慌てて、早々に協議を打ち切ることすらあった。
実のところ、施工会社に、このマンション新築工事の関係者は誰も残っていなかった。引渡し後2年ほどで、アフターサービス部門に引き継がれたが、その担当者も既に3代目になっていて、結局この建物をよく承知している工事関係者が協議の場にいないという状況は、決して褒められたものではない。加えて、協議にはアフターサービス部門が複数名出席するものの、工事部は参加しないという体制で、隔靴掻痒たる状況が続いた。
彼らの言葉の端々に「構造躯体は問題にさせないぞ!」という意気込みすら感じさせた。

【強硬派】
強硬派は、兎に角建築士を自分達の味方に取り込むべく接触を試みたが、実現しなかった。弁護士に対しても様々な方面から加圧を試みたが、さすがに弁護士が屈することも無かった。
次第に、理事会と強硬派との溝は深くなり、怪文書が飛び、個人攻撃が見られるに到った。理事長夫人が強硬派リーダーとエレベーターに乗り合わせて、かごの隅に追い詰められたり、共用通路ですれ違う時に凄まじい眼つきで睨まれたりということもあった。
それでも理事長は毅然たる態度を崩さなかった。
そうこうするうち、焦り始めたのか、強硬派の一部が、施工者と直接接触を試みるに到った。
最初のターゲットは、アフターサービス部門の担当者だったが、次第に怯えを感じるようになり、看過できないと判断した本社は、顧問弁護士との協議を始めていた。あくまで「管理組合と話し合う」という姿勢を貫き、強硬派単独との交渉の席に付くことはなかった。
強硬派のこの動きの中、施工者と理事会は、調査と補修工事に向けた話し合いを中断せざるを得なくなった。しかし、施工者はそれとなく「問題部位については徹底的に補修する」という意向を匂わせる事は忘れていなかった。

【話し合い再開】
レポート提出から一年以上経過した頃、建築士にとっては極めて唐突に、話し合いが再開された。
再開後最初の話し合いには、管理組合の弁護士と建築士、そして施工者はアフターサービス部門に代えて工事部門を出席させた。いわゆる「本隊」で、既に現場代理人が選任され、現場事務所の設置を1週間後に控えていると告げた。施工者側の弁護士が出席していない理由が納得できた。
漏水調査について、引継ぎのような形でアフターサービス部門が行なった説明に対して建築士が指摘した不合理についても、現場代理人は、建築士と同感であるような意見を述べた。つまり、「構造躯体に関する瑕疵の可能性」を否定しなかった。

これまでのアフターサービス部門との話し合いが全く噛み合っていなかった状況に比べ、「本隊」とは阿吽の呼吸が通じることに、建築士は、ようやく前向きの動きを実感することが出来た。
そして弁護士は、これまでの話し合いとは全く違う雰囲気に、調査の有意性を予感した。

工事担当者と建築士グループの間で一瞬にして芽生えた信頼感をたよりに、現場乗り込みが始まった。
工事担当者は、現場所長を含めて2名。現場事務所には事務方もいて、修繕工事としては充分すぎる陣容である。
屋根からの漏水被害は、最上階の2戸に集中していた。この2戸では、随分以前に設置された点検口は開いたままだったし、天井クロスは剥がれ、シミができて、家具は隅に追いやられていた。居住者は極めてフツーの人達だから、住戸内のこのみすぼらしさは大きな負担だろうに、管理組合と施工者の話し合いが決着し、原因を解明した上で補修されるまでと、ご家族も納得で我慢していた。100戸以上ある中で、自分達2戸だけが被害にあっているという状況下、日々様々な不安に襲われるだろうに、この冷静な対応には頭が下がった。

【調査開始:屋根スラブ】
改修工事に先立つ調査は、建築士が作成したフローチャートに即して行なわれた。
その冒頭は「屋根スラブの水勾配の確認」だった。
竣工図と施工図、或いは意匠設計図と構造設計図に各種の相違が見られたが、最も大きな問題だったのは、「屋根スラブの水勾配が増し打ちに依っている可能性」だった。意匠図ではスラブ勾配が描かれていたが、軸組図のスラブ下端は水平で上端に水勾配がある。もし軸組図が正しければ、増し打ちConの荷重が構造設計で想定されたものかどうか、懸念される。(この懸念について、理事会は一応理解していたが、万一の場合の重篤さには敢えて注目していなかった節がある。究極のところ、この施工者がそこまでいい加減ではないだろうと思っていた、否、信じたいという処だったのだろう。)
原始的だが、素人である居住者にも理解できるよう、天井を撤去して屋根スラブ下面がフラットなのか勾配があるのかを確認することから始めた。
当然、「住みながら工事」には無理がある。担当者の仕事は漏水被害のあった2軒の仮住まい探しから始まり、引越し業者の手配、電話やNETの移設など、通常の引越しで家族が行なう作業のすべてに及んだ。
引越しは予想外にスムーズに進捗し、建築士が現場確認に訪れたときには既に天井の大半が撤去され、スラブ下端の水勾配が目視でも確認できた。大きな難問がひとつクリア出来、所長の顔には安堵の微笑があった。口では「なんぼなんでも弊社がそんな馬鹿をするはずないじゃないですか!」と言いつつも、「漏水はどうなの。馬鹿なことの骨頂じゃないの」と言われて返す言葉が「そらぁそうですね・・・」としか言えなかった彼としては、やはり「よかったぁ♪」というところだったのだろう。

中断前の協議で、施工者側は、漏水被害が報告されていない住戸についての調査は拒否し続けていた。
しかし、2戸について尋常ではない漏水があり、しかもその2戸の間には住戸が2戸存在しているという状況下で、「今漏れていないからといって、他の家に漏らないなんて保証は何処にもない・・・」という発想は、当たり前の心配である。所長は、建築士の申出を受けて、さも当然と言う風に「この棟の最上階住戸すべてに一旦天井点検口を設けて内部をチェックし、何も無ければ閉鎖してクロスを張り替えるという方法でよろしいですか?」と、こともなげに対応した。アフターサービス部門のあの頑迷はいったい何だったのだろう。

この頃から建築士は、施工者側の並々ならぬ意気込みを感じ始めていた。
実際のところ、施工者側の責任者は建築士たちに、それとなく「問題のあるところは徹底的に修理する!」という決意を何度と無く匂わせていたが、それが何処までのグレードなのかは読めていなかった。話し合い中断前の、木で鼻をくくったような協議は一体なんだったのか、という疑念も払拭できていなかった。
いずれにしても、相当な額の予算を前提としているのだろうとしか理解できていなかった。

屋根スラブ外周の吹付けウレタン(屋根上部は断熱防水)を撤去し、内面が顕わになった。
漏水した2戸のうち片方の住戸では、漏水のあった部屋のスラブ下面がテカテカだった。屋根面にルーフィングを何重にも重ねコテコテにコーチングしても漏水が止まらず、思い余った当時の担当者が「水中ボンド」を塗布したらしい。僅か3~4㎡程度だったが、撤去には数日を要した。
電気配管のエンドキャップと、そこから発したクラックに若干のエフロが見られたが、スラブ下面からは漏水浸入箇所の特定には到らなかった。

【調査:屋根面】
調査の中心は屋根面に移動した。
数年間に亘る補修で貼り重ねられたルーフィングは、一体何枚なのかわからないくらい厚く、コテコテのコーチングに手を焼きながら一枚づつ剥がしていった。元施工であり補修工事にも携わってきた防水業者の責任者はずっと所長に寄り添い、作業を手伝っていた。
何度補修しても功を奏しない補修に苛立った管理組合が、元施工の防水業者が今回の調査に関与することを拒否するという一幕があった。
そもそもドレイン廻りの納まりが奇異であることを指摘していた建築士は、この納まりで防水を適切に施工すること自体無理があると思っていた。それでも漏水したら、責任は防水工事業者に所在するという考え方は、容易に納得できるものではなかった。だから、黙々と作業をサポートする数名の防水業者の姿に、最初は胸が痛んだ。しかし、漏水事故はそれはそれとして、原因究明にひたすら向かう姿勢に徹する所長は、他となんらの区別をすることなく明るく快活に作業を指示し、防水業者はてきぱきと動いていた。遭えて口にはしなかったが、この所長と防水業者との間にある大きな信頼感が垣間見えた。

スラブを貫通して立ち上がる伸長通気管と樹脂製の脱気筒に、1000Paで放水試験が行なわれた。
伸長通気周囲の防水層は、通常は蛸足状のルーフィングを増し貼りするが、外見からはその施工が確認できなかった。脱気筒は、スラブにCon釘で固定する場合があるが、このスラブには電気配管が打ち込まれている。そもそも電気設備の設計図・施工図とも「流しケーブル」で、配管が内蔵されている事実は、図面からは察知できない。エンドキャップにエフロが見られたことからして、たまたま脱気筒を固定する釘がCD管を直撃したという可能性は否定できない。
いずれも、直下のスラブ面を内部から注視する作業員と逐一連絡しながら作業が続けられたが、室内には異常は見られなかった。
放水試験を終えた通気管と脱気筒は、次に、周囲にウレタンボードを立ててコーチングで接着し、つまり堰板を設けて夕方に10cmの水を貯水して、翌朝の作業開始時に水位の変化と室内状況を確認した。室内状況は天井を撤去した住戸でしか確認できなかったが、水位観察は、それ以外のすべてについて行なわれた。
結果的に、伸長通気も脱気筒も無罪放免となった。残るは防水層そのものである。

先に、「ドレイン廻りの納まりが奇異である」と書いたが、その内容に触れておこう。
住戸内部の真上にあたる屋根はアスファルト露出断熱防水で、その外周にはパラペットがあり、共用廊下とバルコニーの上部は跳ね出しスラブの庇でウレタン防水である。マンションの断面設計としては定番スタイルで、普通なら、屋根のパラペット下部に横引きドレインを設けて庇上部に排水し、これを竪引ドレインで竪樋に排水する。
が、この建物の場合、屋上と庇でスラブ段差が無いに等しい。
矩計図では、屋根スラブの水下は梁天端+50、庇水下は梁天端-50で、都合100mmの段差があるが、前者はドレインの納まり上必要な寸法だし、後者は水上では梁天端に近似してしまう。つまり、ドレイン位置では、内外のスラブに段差が無くなっているのである。案の定というか当然に、横引きドレインの横引き管はウレタン防水面に「置かれた」状態にしかならない。仮にドレイン付近の防水納まりが完璧だったとしても、庇上に開放された無防備な横引き管はあまりにも危なっかしい。

【漏水箇所はここや!】
漏水のあった住戸の上部にある横引きドレイン2箇所の周囲に、パラペット両側にまたがる堰板を設けて、水張試験を行なった。堰板内部に夕方注水した水位を翌朝確認したところ、目視でも解るほど下がっていた。
「ここや!」所長が叫んだ。
ストレーナを外し、ドレイン周囲を指触した。そして、防水層と鍔との取り合いに隙間が見つかった。メーカーの見解も「鍔と防水層の密着不十分」というものだった。
屋上のあちこちに散らばっていた防水職人達も集まってきた。ドレイン近くに立つと、ジュワッという感じで水が出た。前夜からの溜まり水であろう。
最上階住戸室内で確認したクラックに沿って、断熱防水を切断除去した。室内とほぼ同じ位置にクラックがあり、水を流すとたちまち住戸内に流れ出た。除去範囲を広げると、一定範囲から外側で、プライマーの色の変化が見て取れた。溜り水があったろう範囲は赤茶けた色合いだったが、周辺は黒々としていた。
数年に及んだ漏水被害のメカニズムは。ドレイン周りから防水層内に浸入した雨水が断熱層内に蓄えられて溜まり水となり、大雨や長雨によって溜まり水の水位が上昇してクラックに到達して、貫通クラックから室内に到ったものである。冒頭に書いた「ウーロン茶のような漏水」は、懸念された鉄筋の錆よりも、屋上補給水槽の付属品である工具容器の留め金の錆であろうことも判明した。

これ以降の調査は極めて大胆なものだった。屋根の棟から廊下側(漏水のあった側)すべてについて防水層を撤去したのである。この間雨が来なかったのは、天も施工者の意気込みに気圧されたのかもしれない。

こうして、防水は全域について補修された。
防水層を撤去した半分について一旦断熱防水を復旧し、その後、全域について再度断熱防水を施すという方法で、結局二重に断熱防水される結果となった。そして表面には、元は無かったシルバー塗装も行なわれた。
漏水被害のあった2戸の内装は、既存の仕様を踏襲して改修された。が、断熱性能を向上させ、調理器具を新調し、クロスにはAAを使用するなど、目立たない形でグレードアップが図られていた。仮住まいから戻ったご家族は、勿論大喜びだった。
施工者の意気込みはこれでは納まらず、漏水が報告されていない他の4棟についても、カバー工法で改修した。完成後9年を経過していたから、そろそろ修繕工事を準備しなければならない時期が到来してはいたが、4年目に発生した漏水が、いろいろ事情があったにせよ今まで補修できなかったことについての贖罪なのだろう。

【おわりに】
この改修工事には、現場事務所が設営されてから8ヶ月を要した。
この間、数度に亘り管理組合への説明会が催され、初期には施工者が罵声を浴びることもあった。しかし最後の説明会では、あれだけ喧しかった強硬派も静かになり、管理組合役員からは「ご苦労様でした」の言葉が出た。子供達は現場の人間にすっかり馴染み、行き交う奥様方は笑顔になった。
怒号が飛び交った話し合いは嘘のようになった。

最近の建築瑕疵は、大した協議を持たないままに事件化しているように思える。
建築瑕疵が建築事件になったら、住まい手や施工者はもとより建物も傷つき疲弊する。訴訟と言う手続を経て、仮に和解が成立したとしても、そこには必ずシコリが残る。

常に節度ある対応に徹しておられた管理組合・理事会・修繕委員会、そして大きな漏水被害を受けたご家族には、敬意を表して余りある。不案内な建築用語に果敢にチャレンジし続けた弁護士は、管理組合代理人としての職責を見事に果たされた。大きな予算を組んで事に当たった施工者は、請負としての模範を示された。建物に成り代わって、大きな謝意を表したい。

キクイムシ

古い友人Sさんから、久々に電話があった。折り入って相談したいことがあるという。数年前に自宅を建て替えたが、キクイムシが発生して酷い眼に遭っているらしい。

会って相談したいというので来て貰ったら、工務店のオヤジGが同行して来た。面持ちは一応神妙な感じだが、名刺交換しても視線を合わさず、椅子に座ってもテーブルには斜に構えていて、要するに不貞腐れている。

「本当にキクイムシなの?」
とGに尋ねると、
「薬撒いてんねんけど、・・・」
「どうやってキクイムシだと特定したんですか?」
「白蟻屋が言うとった」
「標本採取して見たんですか?」
「しとるかも知れへんけど、知らん」
「その白蟻駆除業者はなんと言ったんですか?」

・・・
話が遠いのでSさんが割って入った。
この家が出来てから6年、毎年Gが手配して薬をまいていたが、年が変わればまた発生するということを繰り返していたらしい。
しかし、昨年からGと連絡が取れなくなった。Sさんは、それまで来ていた駆除業者に頼まず、インターネットで知った薬剤の袋を家中にぶら下げて凌いでいた。
ところがある日薬剤の袋を見て?・・・「!」 中国で製造されて大きな被害を出した餃子事件の薬品名がはっきり書かれていたのだ。
Sさんは吃驚してすぐに薬剤を取り外したが、じゃぁどうすればよいのだと立ち往生し、相談に訪れることとなった。
ここまでおとなしく話を聞いていたGが、
「合板があかんかってん!」
またSさんが解説した。
Sさんの家は鉄骨造3階建で、本来なら準耐火建築物にしなければならず、そのためには室内の壁や天井に石膏ボードを使用しなければならない。しかしGはなぜか合板を用いてしまった。
虫害が発覚した1年目に、合板に問題があったことをGは察知していたようで、発生部位の合板を部分撤去して石膏ボードに張り替えるということを繰り返していたのだそうだ。
Sさん宅の工事時期は、シックハウス法施行時期と一致していたようで、Gが言うには材木屋が抱えていた在庫を流したらしい。
しかし南アジアで生産された合板だろうということ以外、何もわからなかった。

まずは害虫の特定を行なうため、専門家Zさんに調査を依頼した。木造間仕切りと天井の内部を点検するために、点検口を設置するようGに求め、現場に行くと職人が待っていた。Gは来なかった。
Zさんは、最初に小屋裏を見たいと言う。間仕切りや外壁に虫害が発生している事は、壁面に無数にある小さな穴とその付近の床に積もった黄な粉のようなもので確認できる。現状では小屋裏での発生が確認できておらず、被害程度を推定するために、まずは3階に天井点検口を設けた。
Zさんが脚立に昇って点検口から小屋裏内部を覗き
「野地板までやられていますね」
とつぶやいた。
手際よく顕微鏡などをセットして、手のひらに載せていた標本を暫定的に同定し、
「この口の形は、間違いなくアフリカヒラタキクイムシでしょう。」
Zさんが現場に来る前にSさんが数匹の虫の死骸を郵送し、あらかじめ予測していたものの、郵送途中で微細部分が破損していたので特定には到らず、そこを確認したらしい。
「外壁と間仕切壁で終わっていたらよかったのですが、野地板まで食われていますから、根絶するのは大変ですね。」
「大変と仰ると・・・?」
この虫は、薬剤で殺すことは出来なくない。
まずは虫の食材である広葉樹を出来るだけ広範囲に撤去し、撤去できない部位については薬剤を散布して、半年ごとに経過観察しながら対応していくのだそうだ。
しかしこれは、言い換えればやってみなければわからないという事。
「住む人間にとっての影響は?」
と尋ねると、
「殺虫剤ですからね、人畜無害と言うことはあり得ません。程度の問題だけです。」
とあっさり言われてしまった。
「・・・と、いうことは、壁と天井と野地板を全撤去・・・ですか・・・」
とつぶやいたのは、いつの間にか来ていた設計事務所M。
Gから建築確認だけを依頼されていた。
Zさんは
「私は害虫駆除が主たる仕事ですから商売にはなるのですが、これだけ大量の発生は珍しいですからね、本当のところやってみなければわかりません。もしかすると、2・3年やってみて、結果的には改めて全撤去するしかないと言うことになる可能性も否定できません。」
Sさん夫妻・M・立ち会った私達全員が言葉を失って立ち尽くす中、Zさんは
「大学の研究室と相談してみますが、多分この現場は、西日本最大の生息地でしょう」
と言い残して立ち去った。

それ以来、Sさんの相談にはGとMが同席することとなった。
Sさんは、夫人が気味悪いと言い続けていたことにあまり配慮してこなかったことを随分反省していて、早期に解決したい。
自分が住むのだったらと考えれば、私としても
「やってみなければわからない」
様な駆除方法を勧めることは出来ない。
Gは「Sさん。ワシ・・・買い取るわ」と言う。
Mは「Gさんひとりで被るんやのぉて、材木屋に責任取らさんと・・・」と言う。

Sさん夫妻は長年ここに住んでいるから、そう簡単に売却を考えることなど出来ない。加えてSさんの近隣は殆どが老朽木造家屋で、今生息している虫どもが移動したらひとたまりも無い・・・かもしれない。この責任感からもSさんは「この家を投げ出して転居することなど出来ない」と言う。
SさんはGに
「なぜ法律で決められた石膏ボードを使わずに合板を使ったんだ」
と何度も尋ねたが、Gはその質問には一切答えなかった。Sさんは、Gの順法意識の低さが生んだ被害ではないかと思っているようだ。
Mが「改修要領を作りました」と持参していた。
内容は、Sさんの疑念を払拭するようなもので、つまりは準耐火建築物に改修することと同義だった。
それならばと、
「この改修要領書に基づいた改修工事をGさんが行ない、Mさんが監理する」
という方法はいかがでしょう?と持ちかけた。
これにはMがまず反発した。
「Sさんが私を信頼して戴けるということはあり得ませんから、瑕疵補修工事の監理者としては私は適任ではありません!」
続いてSさんも「あなたがしてくれるとありがたいのですが・・・」

私としてはGの現場で監理する事は不可能だと思っていた。
Gと私の間には共通言語が存在しないかのような印象があったし、Gが、建築士事務所の監理の下で施工した経験があるとも思えなかった。ありていに言えば、Gが私の指示に従うという保証は何処にも見出せなかった。だから、Sさんの代理として現場を見ることは出来るが、その場合にはMが介在することが条件だと主張した。
Mは、「私が監理すると、瑕疵補修工事で瑕疵を生ずる可能性もありますよ」とまで言い、話し合いは一旦散会した。

Mが、監理者責任を問われることを恐れているのは明らかだった。だから、挽回できる良い機会に出来る可能性があると、その後もMを説得したが、あからさまに言う事は憚られたので、Sさんに、ここらで一度弁護士に相談してはどうかと持ちかけた。つまりは弁護士的手法でMに監理者として座ることを承諾させたうえで、GとSさんの合意書の締結に持ち込ませたかった。いずれにしろ、合意書作成に関与する事は非弁活動に該当しかねないから、時機は到来していた。

Sさんの大学の後輩である弁護士Yの事務所で話し合おうということになったが、Mから、Mの友人である弁護士Tの事務所ではどうかと提案があった。双方の弁護士が同席して話し合いを持つことは大歓迎だし、幸いにも弁護士YとTは事務所が同じビルであるということ、そして偶然にも私は弁護士Tとは知己であったので幸先の良さを予感した。

T事務所でこれまでの話し合いの経緯を確認した後に、T弁護士から「金銭解決したい」と提案された。
SさんはGの資金力を心配していて、だからこそ改修工事はGにやってもらうしかないと臍を決めていたが、Gが再び工事することに対する夫人のストレスを考えれば、多少我慢してでも合意するほうが良いかもしれないと思っているように見えた。

新築工事の際には書面による契約が無くつまりは口約束のみで、驚いたことに請負金額をSさんもGも覚えていなかった。それで、一般的な坪単価から構造コストを除外した金額をざっくりと想定し、「最低でも○○万を下回ることは無いよ」とGに伝え、弁護士Yが「仮住まいや引越しやその他の諸費用も相当な金額になりますよ」と付け加えたが、Gは無言でうなずくだけだった。

早速、馴染みの工務店に具体的な工事費を概算して貰い、Sさんは引越し費用などの見積を用意して、弁護士間で話し合いが持たれ、工事費に若干の値引要請があっただけで示談が成立した。金銭授受も、過日、約束どおり実行された。

建築紛争に関与して15年以上になるが、これ程すっきりした解決は初めてである。
SさんがGやMの前で訴訟を匂わせることは無かったし、Gは不貞腐れた表情を見せたもののMと同様逃げることは無かった。勿論罵声を浴びせることも涙を見せることも無く、後味の悪さは微塵もない。
これこそ、裁判外紛争解決手続きの理想ではなかろうか。

設計のまずさ

かつて、建築相談のテーマの殆どは施工の問題だった。
勿論そこには監理の問題はあるが、設計の問題が俎上に昇ることは少なかった。
しかし最近、これが増えているように感ずる。

設計の拙さというか不味さというか、なんとも割り切れないお話を。

【塀】
戦前からの長屋がまだ残る下町。若い夫婦が、祖母が所有していた土地に住宅を新築した。
引っ越してすぐに、隣組の役員という人が訪れ、挨拶もそこそこに切り出した。
「お宅が立てはった裏の塀ですけど・・・ちょっとまずいんでねぇ・・・動かして欲しいんですわ」
「あぁ。あの塀は、よく見てもらえばわかるんですが、マンホールの上はちゃんと空けてますんで問題ないと聞いてますけど・・・。」
「いや、マンホールが開いたらえぇっちゅうモンやないんですわ」
「え・・・?」
「どこも、あんなぎりぎりに塀立てたはれへんでしょ あれね、昔の肥汲み路地ですねん せやから、どこも控えてはりますんや」
「そんなこといわれても・・・ うちの土地ですよ・・・」
「亡くなったおばぁちゃんから聞いてはれへんのでっか? 建てて貰わはった大手メーカーもなんにも言わへんかったんでっか?」
「・・・別に・・・」
「兎に角ね 近所が困りますんでね なんとか考えとくなはれ 頼んどきまっせ」

建築協定などでは勿論ない。
しかし、その並びの建物が皆控えているのに一軒だけ出っ張って、設計者も現場も何も疑問に思わなかったのか?
建築は、法令を守って居ればそれでよいというものではない。特に、新しく居を構える人たちにとっては、ただでさえ近所に馴染むことが大変なのに、建築工事がそのハードルを引き上げてどうする。

【居室の給気口】
或るワンルームマンションには、住戸の梁型に給気口が嵌め込まれている。
新築時に入居した住人が、1年ほどで引っ越した。それで、オーナーがクリーニングを依頼したところ、その業者からクリーニングでは間に合わないと言われた。
訊くと、フィルターが目詰まりしたまま放置していたから、その周囲のクロスがめちゃくちゃに汚れており、クリーニングでは足らないのだそうだ。
クロスを張り替えなければならないが、オーナーはその費用に驚いた。
一室だけなら何とか凌げるが、バタバタと4軒の空室が出て、いずれの住戸も、クロスを張り替えないといけないといわれたのだった。
新築後1年でクロスの張替えは堪ったものではない。
簡単に納得できるはずも無く、建設会社に電話した。
「こんなに早くクロスを張替えなければならないのはおかしいんじゃないの?!」
「そんな事仰られても、住人がフィルター掃除してくれていないからじゃないですか。入居者に配布して貰っているファイルに、月一回清掃してくださいと書いてあるでしょ。」
見事に切り返され、オーナーは
「そっか。なんて行儀の悪い住人だ!」
と憤ると同時に、
「クリーニング業者も言い過ぎだ!」
と考え、自分で掃除しようと思い立った。
ダスターと洗剤を持って空いた住戸に入って、はじめて給気口の存在を知った。
室内側に大きく出っ張った梁の真ん中。確かに汚い。予想を上回る。
給気口を中心に、お陽様マークのように放射状の汚れ。
「よぉこんな汚いままで棲んではったわ」
息子も
「うわっ!えらい汚いなぁ」
と言い放つ。
かなり高い位置にあって、息子でもまったく届かない。脚立が要る。
息子が1階の物置から脚立を持ってきて
「僕がやろか?」
と言ったが、
「これはお母さんの仕事よ」
と息子の肩に手を掛けて脚立に昇った。・・・が、梁の出っ張りが大きくて、壁に手をつくことができない。息子が手を伸ばして支えてくれようとしたが、それでも怖くて立てない。

「お母さん無理やわ。お願い」
と脚立を下りた。
息子がフィルターを取り外して「えらい汚いなぁ」と、また顔をしかめた。
そして、怪訝な表情に変化した。

「お母さん、僕、今、下から脚立持ってきたやん」
「住んではる人・・・脚立なんか持ってない・・・よね」
「背が低かったら、椅子に載っても届かへん・・・!」
「こんなん・・・! なんぼフィルター掃除してくださいって書いといたって、出来へんやん!」

外壁の窓上の大梁に給気口を設置している。言うまでもなく、シックハウス対策の給気口で、室内側のふたをプッシュして開口面積を調節するというお馴染みの品物。
だが、ふたにはとても手が届かない。
加えて同じ給気口が2箇所並んで設置されている。
そして排気は浴室・便所の天井扇か、キッチンのレンジフード。
いずれも風量は大きく、相当なサプライが必要なのだろうが、それにしてもワンルームの居室に給気口2箇所というのはちと多い。
給気口を設置すればそれで足りるのか?
給気量調整用のふたには手が届かなくてもよいのか?
フィルター掃除に脚立が必須で、それでよいのか?

【機械駐車設備】
賃貸マンションの1階の過半が機械駐車設備で占められている。
単純な3段式ではなく、パズル方式のうちでもとりわけ複雑なものである。
条例で規定されたものではない。在って邪魔なものではなかろうが、空き区画が多い。
某タワーマンションの地下駐車場は、3/4が空いている。
郊外地の古いマンションでは、居住者の高齢化のためか100%確保された駐車区画に空きが目立ってきている。
若い世帯が多いマンションでは、ワンボックスカーが機械駐車装置に収容できず、これも空き区画が増えている。
鉄道の駅から徒歩圏内の立地であれば車の必要性は極めて低いし、若者の車離れが叫ばれるようになって久しい社会状況からして、このワンルームマンションにこの機械駐車設備は「過剰設備」ではなかったか。

話が少し逸れるが、機械駐車装置の法定償却は15年らしい。
適切にメンテナンスしておけば20年程度は使えるということだが、仮にそぅだとして、1台の新設コスト100万円プラス維持管理費などを加えて20年(240ヶ月)で割ると、設定すべき月額賃料は1.5万円とも1.7万円とも言われている。
都心では無理のない賃料かもしれないが、そこに空き区画率を考慮すると、途端に厳しい算定になる。

【駐輪場】
100戸程度の分譲マンション。
駐輪場には道路から直接入ることが出来る。
スペースとしては十分すぎるほどだが、平面形が入り組んでいて、入り口から奥を見通せない。
突き当たりは敷地内空地に面した外壁だが、開口部は無く行き止まりである。
自転車を置いたら引返さないとエントランスに行けない。
そして窓が無いから、照明は常時点灯。
つまり、昼夜を問わず、自転車で帰宅した住人は、内部の様子をうかがうことが出来ずに駐輪場に進入しなければならないし、自転車を置いた後は自転車の陰に誰か潜んでいないかと怯えながらエントランスに向かわなければならない。
「怖いね」と事業主系列の管理会社に伝えたところ「監視カメラつけられたらいいんじゃないですか」と言われ、ついでにとカーブミラーも合わせて発注したそうだ。
最近どこもかしこも監視カメラだらけで、犯罪捜査には威力を発揮しているようだし、抑止力もあるらしいが、前提には適切な建築計画があるべきで、監視カメラが必須というのはいかがなものか。

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あれもこれもそれも、どれも、法律や条例に反するものなどでは勿論ない。
建築主や区分所有者・入居者たちは「どぅなんやろなぁ・・・」と思いつつも異を唱える事は少なく、ぼやきながらもなんとか対処している。だから大きなクレームにはなっていない。
しかし、根本的な改善を思い立ったとき、予想外の費用を要するか、或いは大きな費用を無駄にすることになる。
施工者に「なんとかならへん?」と言っても「勿体ないですよ」といわれる。
「こんなつもりや無かった」と言うと「うちは図面どおりに施工しただけですから」と逃げられる。

「設計ミス」ではないかもしれない。しかし「設計の問題」であることは確かである。

賃貸マンションのオーナーのお話

Aさんは公務員です。
先祖からの不動産がいくつかありますが、職責柄不動産業を営むことに抵抗があって、空地を駐車場にして賃貸するのがせいぜいでした。昭和の末頃から評価額が上昇し、駐車場からの収入がそのまま必要経費と税金に流れるようになって、周囲から資産家と呼ばれてもなんの実感もありませんでした。

世間知らずを自負するAさんは、両親が生前親しくしていたオバチャンだけが頼みでした。オバチャンは小規模ながら代々の商売を受け継いでいます。これからの地価はどうなるとか、税金対策についても話してくれます。でもAさんは、オバチャンの話を頭では理解できるのですが、具体的にどうすればよいのかはさっぱり判りません。

或る日、オバチャンが、駐車場にビルを建てないかと持ちかけてくれました。Aさんにはそんな資金はありません。でも父祖伝来の土地は、長男である自分の代では売りたくないと思っていました。オバチャンはすべて心得ていて、公的資金の借り入れと、その窓口になる銀行まで世話してくれました。そして、何より重要なテナントを、しかもそっくり一棟借りてくれるテナントCを紹介してくれたのです。

Aさんに文句があろうはずも無く、ハナシはとんとん拍子に進みました。テナントCのニーズだと、土地は2/3程度で足りるのですが、残地を駐車場にしても効率が悪いので、マンションを併設することにしました。ここいらは最近若者に人気の町です。工事は、これもオバチャンが数十年来の付き合いだというB建設が設計施工で受けてくれることになり、大震災の直後ではありましたが、支障なく完成しました。

一棟まるごと借りてくれたテナントCは、数年後に社長が交代し、前社長はオバチャンの長年の友人でしたが、新社長の事はよく知りません。それまで時々はC社に赴いていたオバチャンは、いつの間にか足が遠のいていきました。

ある日、マンションの仲介を頼んでいる会社から「いい加減に修繕工事して貰えませんか」と電話がありました。Aさんが「でもB建設からは何の連絡もありませんけど」と答えると、「一旦テナントさんが出たら、次のテナントが付かないんですよ」といわれました。「相当汚くなっているんでねぇ」

Aさんは大学の工学部出身で、自分が理科系人間であることを誇りに思っています。建築も工学系ですから、自社の設計施工で建てた建物に、B建設は当然愛情と愛着を持っているはずで、我が子のように見守ってくれていると信じていました。

Aさんが仲介さんから言われたことを伝えると、オバチャンは
「そうやねぇ、もぅ10年以上経つもんねぇ。早いトコ改修工事せなあかんね。」
「そんなこといわれても・・・」
「B建設に云いなさい。」
云われたとおりB建設に電話しました。
「随分汚くなっているらしいじゃないですか。なぜ放っておいたんですか!」
と支店長に抗議したところ、
「そんなこと仰られても、Aさんからご指示がないと弊社としては何とも・・・」
「汚くなっているのを知ってたんでしょ!」
「近くを通ったときには一応見ていますから・・・」
「じゃぁ、何故、こうなる前に言ってくれないんですか!」
「ですから、Aさんも当然ご承知だろうと思っていましたし、押し売りみたいになってもいけませんので・・・」
「早急に何とかしてくださいよ!」

すぐに、オバチャンから支店長に電話がありました。
「どないなってんのん?」
「えらいご立腹で・・・」
「放っとかれたって怒ってたよ」
「放っといた訳じゃないですよ。10年の担保切れのときにテナントさんにご了解いただいて防水のチェックをして、ちょっと漏れた形跡があったんで補修もしましたし・・・」
「そぅ、ちゃんとやって呉れてたんやぁ」
「そうですよ」
「せやけど、ぼちぼち修繕の時期やって云うてやらな」
「そう仰られても・・・」
「兎に角見積もりしてよ」

出てきた見積にAさんは吃驚してしまいました。オバチャンに「こんなお金無いよ」と電話しました。
「あんた、頂いた家賃どないしたん?」
「そんなん、借金返済と税金支払うたら、必要経費でチョンやん」
「テナントの保証金は?」
「あれは置いてある」
「それ、使うたらえぇやん」「
あかん!あれは手ぇつけるの怖い。テナントが出て行く言うたら要るやん」
「保証金の“引け”があるやんか」
「それはその時の事やん」
「なんぼやったら出せるの?」
「税理士に聞いたら○○が限度やて」
「そんなんあかんわ」
「せやかて」
「そんなん全然足らへんやん!」
「・・・」
「借り入れ起こしたら?」
「これ以上借金抱えてどないすんのん」
「駐車場やった頃の家賃、定期にしてたでしょ。手ぇつけた?」
「いぃや」
「あれ、●●位はあったと思うけど・・・」
「それでも全然足らへんやん・・・」
オバチャンは、B建設に掛け合いました。
「もっと安ぅならへんのん? お金無い言うてるわ」
「どれくらいやったら?」
「××・・・」
「えぇぇっ!」

そうこうするうちに、またマンションのテナントが出て行き、入居率が50%になってしまいました。
仲介さんは
「Aさん、もぅ限界ですよ。何とかしてくださいな。場所はいぃんですから、もぅちょっと綺麗にしたらテナント入るのに」
と云ってきます。
「外壁塗り直すだけで大丈夫ですか?」
「ちょっとお洒落になれば・・・」
「そんなん・・・B建設じゃ無理ですよ。あそこ、工事はしっかりしてるようですけど、デザインは駄目です」
「せめてエントランス廻りだけでも・・・」
「B建設じゃ無理ですって」
「じゃぁ・・・うちでデザインご提案しましょうか?」

Aさん、B建設、仲介さんがオバチャンの会社で一堂に会しました。仲介さんの提案に沿ってB建設が見積したところ、税理士が言う限度の○○を大幅に超えました。
オバチャンは、仲介さんに
「このデザインにしたらテナント入るんやね!」
と脅迫的に念を押し、仲介さんは
「来年の2月には完成させてくださいよ。でないと時機を逸しますから」
と、かろうじて釘を刺しました。
オバチャンは
「○○じゃ納まらへん事は明らかやんか。あと□□出せるでしょ!」
とAさんに迫り、Aさんが逡巡している間に
「なんとかこの予算に合わせる見積にして頂戴!」
とB建設に指示しました。
そうして、○○+□□を少し上回る金額になり、Aさんは「仕方ないか」という気持ちになりかけていましたが、それでもまだ逡巡していました。

ちょうどその頃Aさんは海外出張が多く、最後の詰めがなかなか出来ませんでした。
仲介さんはB建設に
「いつ頃やったらお客さん案内できるようになりますか?」
「いつ着工するんですか?」
と訊いてきます。来年の2月完成に向けた予定工期から言うと、既に着工していなければなりません。一同が会した席での決め事だったので、B建設は契約を待たずに足場を組み始めました。そんな事は露ほども知らないAさん。出張からの帰りに寄って見たら足場が組んであるので吃驚し、あろうことか「僕に無断で何するんですか!」と叫んでしまいました。

B建設も仲介さんもオバチャンも凄く慌てて、なんとか取り成そうとしました。でも、Aさんの憤りは静まりそうにありません。そもそもAさんは、みんな真面目にやってくれていると思ってはいましたが、これだけ汚くなるまで何も云ってくれなかったことに納得できていなかったのです。仕方なく、B建設は一旦組んだ足場を撤去しました。入居者は「あれ?」でしたが、この騒動で退去者が出るという事態には到りませんでした。

年が改まると、またマンションのテナントが出て行きました。Aさんが「なんで?」と訊いても、仲介さんは「わかりません」というだけです。
「やっぱり、綺麗にしないと仕方ないんですかね」
と水を向けると
「そうですよAさん。今シーズンには間に合いませんが、来シーズンまでに何とかお願いしますよ。B建設との話し合いは進んでいますか?」
「足場を外してから、何も連絡はありません」
「他の業者をご紹介しましょうか?」

Aさんは窮しました。どうしても、この建物を建てたB建設以外のところに任せる気にはなれないのです。でも去年の足場騒動で、支店長は本店から豪く叱られたと聞いています。自分が間違った事をしたとは思えません。だから自分から声を掛ける気にはなれません。
困ったときのオバチャン頼み。恐る恐る電話しました。
「あなたのこの問題は、私には荷が重いわ。B建設の支店長は、本店の手前どうにも動きが取れない。仲介さんは喧しく言ってくる。そしてあなたは決断しない。私はね、あなたの死んだお母さんと親友だったから、彼女だったらどうするかなって考えながら、あなたのためと思って今まで動いてきたけれど、違ったかも知れへん。私では、よぅ纏めん。」
「僕を見放すのん?」
「違うよ。そんなこと云うてへん。私はね、あなたはどう思っていたかは知らんけど、あなたにきついことが言えなかった。あなたに甘かったんよ。だからみんなを混乱させてしもぅた。」
「そんなこと云われても・・・僕はどないしたらえぇの」
「或る人を紹介したげるから、相談してごらん。設計事務所やってる人やねん」
「設計事務所? 図面なら仲介の提案書があるよ。B建設でも描くやろ」
「設計事務所の仕事は、図面を描くことだけやないと思うのよ。勿論必要やったら図面も描いてくれるやろぅけど、あなたの問題を治める手助けは、あの人やったら、なんとかしてくれるかもしれへんって思うねん。ちゃんと紹介してあげるから、相談してみなさい。」

いい歳をして情けない話ですが、最近あらためて、私たちの仕事って何だろうと考えます。
今、建物と真正面から対峙しようとすると、建築以外のいろんな要素に立ち向かわなければなりません。そんな事は、他の業界でも他の職種でもやってる事だと云われそうですね。きっとそうなのでしょう。でもね、設計者が、建築以外のいろんな要素に向き合っていることも、事実なのです。

Aさんのような困りごとを解決するのは、海外では弁護士だと聞いたことがあります。Aさんではどうしようもなく、オバチャンも疲れてしまったという状況では、Aさんの“代理人”が必要なのです。建物を不動産という側面から見れば、フィナンシャルプランナーが出てくるのでしょう。プロジェクトによっては広告代理店が主導することもあります。

弁護士は、殆どの立場について代理できますが、まだまだ狭義の法律手続に特化した職域です。他もおなじで、つまり、弁護士・フィナンシャルプランナー・広告代理店、どれをとって見ても、Aさんが頼みにすべき代理人という立場であることを表現する職種名称ではありません。そして設計事務所も・・・そうです。

今、あらゆる職業が専門職化しています。でもこれは、専門的能力を備えるという美名のもと、実はそれぞれの業界の生き残り策であり、特権の維持であり、それを餌とする官僚社会や一部のドンの策謀という側面が垣間見えます。あまり多くの専門資格が出来てしまい、その資格が無いとやっちゃいけないと思えることばかり。でも、専門職であればあるほどAさんの代理人は務まりにくい。つまり、Aさんが必要としているのは、スペシャリストではなくゼネラリストなのです。

建築士に取り締まり行政の網をかけ、否応無く狭い範疇でのスペシャリストに仕立て上げようという風潮のこの国で、それでも建物に関するゼネラリストとしての役割を果たすためには、私たちがそこに座ることが適切なのではないでしょうか。

瑕疵調査と扇動家

以前、このような事を考えていました。

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建築には、生命・財産の容器としての安全性、街並みを構成する要素としての形態、生活を支える環境としての快適性能、資産・社会資本としての価値の確保、そしてステイタスを物語る意匠など、多くの与条件が付される。かつて、消費者はこれら諸条件を、良識をもってバランスよく発注し、生産サイドは持てる能力を惜しみなく投入する事でこれに応えてきた。
然るに、今日我が国で多発している建築紛争は、建築に対する不信を煽り、市民社会を混沌に陥れ、建築から文化という誇りを奪い去ろうとしている。

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瑕疵担保法がスタートして、問題を抱えた新築住宅は減少したように見受けられます。
それでも、研鑚を忘れた技術の稚拙、独善ともいえる独自理論の展開、建築関連法令に適法である事を奇貨として配慮という名の美徳を置き去りにした「瑕疵調査」は、まだまだ後を絶ちません。そしてその陰には、扇動家とも言うべき存在が否定できないのです。
今回は、彼ら扇動家たちの扇動家たる所以をご紹介しましょう。

防水層の欠落を指摘したA氏
漏水に苦しむ建物がありました。仮にBと呼びます。
RC造の外壁には悲しくなる程の白華がありますし、バルコニーに出るテラスサッシからは、雨が降ると水が入ってきます。天井扇やダウンライトからは、ポタポタと水滴が落ちます。台風が来たときには眼も当てられない状況です。建てた工務店は、知らんぷりを決め込んでいた訳ではありません。個人的な印象を言えば、かなりの対応をしてきたように感じられたのですが、それでも漏水は止まらなかったのです。
工務店は、設計自体に問題があると考えていました。工事中から「?」だったそうで、それを建築家に投げかけましたが、決められた工程もあって功を奏しませんでした。建物Bは悲鳴を上げ、他の工務店による大改修を決断し、漏水調査に定評があると噂のA氏に調査を依頼しました。

A氏は、簡単な調査を経て、ルーフバルコニーの防水の再施工を指示しました。その理由は「防水が施工されていないから」です。
ルーフバルコニーは小規模ではありません。工務店はいぃ加減な施工をする会社とは思えませんし、建築家が作成した納まりスケッチは数十枚に昇りますから、監理も半端ではなかったと推定されます。常識的には防水層が無いとは考えられません。そこで、A氏の調査報告書を見せて貰いました。破壊調査もせずに、どうやって防水層が施工されていない事を発見できたのか興味津々だったのです。

設計図書に依れば、ルーフバルコニー床面は「アスファルト防水の上、押えCon(豆砂利洗い出し)」です。排水溝には大きめの玉砂利が撒かれ、背の高いストレーナ(ドレインのカバー)だけが見えています。A氏は、この玉砂利を除けて排水溝を顕わにしました。排水溝は、つまりは押さえConに設けられた排水溝は、至極当たり前の状況なのですが「ここに防水層が見えない」からという理由で「防水層の欠落」を指摘したようです。
読者諸兄には「えぇっ?」でしょうし、筆者にも訳がわかりませんでした。写真で示された排水溝は押え層に設けられた凹みで、その下にはきっと防水層があるはずです。建物調査には既成概念を排除して臨まなければいけないことは承知していますが、もし押え層の下の防水層が無いというなら、その前に押え層をはつる等してでも確認すべきではないでしょうか。
もう少し、A氏の調査報告書を読み進みむと、屋根防水の項にあたりました。実は、A氏が調査する前に既に屋根防水を改修しており、A氏は、その工事記録写真に基づいて「防水下地の杜撰」を指摘しているのです。(どうやらA氏は、漏水の原因は防水層にあると思い込んでいるようです)

屋根は断熱シート防水で、記録写真には、断熱材を5㎝□程度正方形にカットされている写真が掲載されていました。A氏の注釈では「改修工事で発見された下地の杜撰」と。つまり(新築工事の時のハナシです。念の為)防水層下の断熱材に5㎝□の穴が開いていて、それをそのままにして防水層を施工しているから、非常識極まりない防水工事だと言うのです。
「んな馬鹿な!」でしょ。でもA氏は至極まじめに「このように大きな穴が見落とされていることは、防水工事業者がいい加減なだけでなく、請負者の管理不行き届きだ」と言うのです。
どぅ考えても「んな馬鹿な!」です。現場の不注意による穴だったらこんなに綺麗な正方形ではないでしょうし、穴が空いた下地に平然と施工する防水業者があるでしょうか。試しに、A氏の報告書に掲載された写真をスキャナで取り込んで拡大してみました。そうすると、この正方形がいやにキッチリとカットされていて、カッターナイフで切り取られた跡が見て取れます。そしてその脇に、今まで見えていなかった「糸屑」のような影が見えました。更に拡大すると1mm程の太さでくるくる巻いています。その色がシートと同じなので、小さな写真では見えなかったのです。

この正方形は、屋根の改修工事担当者が、断熱材の状況を確認するためにカットしたものではないでしょうか。だから、シートの屑が映っているのでしょうし、キッチリとした正方形だったのではないでしょうか。

A氏は権威者であることを自称しています。自らの実績を過度に表現することを嫌うのが私たちの業界ですから、そんな中でA氏のアナウンスは、一般市民には随分心地よく感じられるでしょう。そして頼りたくなるでしょう。
でも、同じ建築士としては、ここまで恥ずかしくなるような間違いは控えて欲しいものです。

実は構造を知らなかったC氏

マンションの跳ねだし通路の出隅が下がるという事故がありました。事業主は陳謝し、すぐさま補強工事を行ないましたが、住まい手には「他の部分は大丈夫なのか」という不安が残りました。事業主は、研究機関や大学に依頼して調査すると申し出たのですが、事業主が依頼したところは信用できないとして、管理組合が独自で依頼することになりました。
管理組合の理事がインターネットで探し当てたC氏に、電話で「構造の瑕疵の疑い」を伝えると、C氏は助手を連れてすぐさまやってきました。そして管理組合がひと通り建物を案内した後、C氏は、管理組合にとっては案の定というべき回答を口にしました。「仰るとおり、構造の瑕疵の疑いが濃厚ですね」同時に「瑕疵を特定するには相当詳細な調査が必要」とも言いました。管理組合は「ごもっとも」と思い、費用がいかほど必要かを訊ねたところ「管理組合が負担すべきではない。予備費がおありかもしれないが、相当高額になることと、そもそも瑕疵の疑いがあるから調査するという趣旨からすれば、費用は事業主が負担すべきである」と言われ、理事たちは内心ホッとしました。

管理組合は、ヘタをすれば訴訟になるかもしれないと思っていたので、調査費用を事業主に負担させることに異論が出ましたが、C氏は管理組合で負担できるような金額ではないと匂わせています。理事の一人が単刀直入に尋ねました。「事業主に費用負担させたら、万一の時に訴えにくいだろうか」と。C氏は「訴訟するより、改修させることを主眼に置くべきだ。改修方法は私が提案するし工事も指導する。何より、私が調査すれば事業主は否とはいえないはずだ。私は、瑕疵調査の分野ではそれなりに名前が通っている。なんなら事業主と交渉してあげてもいい。」

「大した自信だ!」と理事たちは思いました。そして調査費用の負担を事業主に求めました。

事業主はしぶしぶながらもこの要請に応ずると回答し、見積書等の提示を求めたところ、管理組合はまだ入手しておらず、C氏と直接連絡を取り合って欲しいといいました。
数日後、C氏から事業主宛に見積書が送付されました。金額としては想定内だったので、それで瑕疵が特定できるのか多少疑問ではありましたが、管理組合の理解を得ることが重要だと思い、詳細を訊くことも無く了承しました。

C氏は、建物周囲に足場をめぐらせ、長期間多くの人員を配して調査しました。でもこれは所謂外壁調査のようで、結果として提出された調査速報を見ても、管理組合が心配している構造の安全性を確認するための調査とは思えません。C氏に申し出ると、「これから内部の調査を始めるところだ。あんまり先走って貰っては困る!」と居丈高な返事が返ってきました。
事業主は、黙って調査を見守っています。

数ヶ月して、C氏からようやく調査報告書らしき書類が提出されました。けれど、住戸内部の床レベルを計測した数値を羅列しただけのもので、考察はありません。ただ「床スラブの随所にゆがみが見られる」とあるだけです。理事長が「それで、構造的にはどうなんですか?」と問い合わせると、「これから構造計算する。その後でないと何とも云えない」のだそうです。「まだこれから構造計算するの?」と、理事会も少し疲れてきました。同席していた管理会社(事業主の系列)は思わず「一体どれだけ費用がかかるんでしょう?」と漏らしてしまいました。

事業主は、住まい手の数人から、調査の様子を聞くことが出来ました。床は上げ床でカーペットを貼ってありますが、カーペットも上げ床も外したことは無いそうです。こんな調査結果で、建物の構造を確認できるのかしらと、かねてから相談していた研究機関に問い合わせたところ「これじゃなんにも判らないと思いますよ」とあっさり言われてしまいました。
C氏が最初に行なったのは、外壁の劣化調査でした。次に行なったのは単なる仕上げ床のレベル計測で、そこから何も読み取ることは出来ません。

理事会のメンバーたちは気付きました。C氏が大規模な調査を行ったのは、その手数料を目的としていた可能性が感じられたのです。不況が長く続き、毎月、スタッフの人件費支払いにおびえる状況は察して余りあるところがありますが、依頼者と費用負担者が相違すると言う特殊な状況を演出した上で、本旨から外れた調査を行なって巨額の費用をせしめるというやり方は、決して褒められたものではありません。C氏が、ある種有名な存在である事は事実ですが、であればなおさら、今後は自重していただきたいと思う次第です。

自分のイメージだけを大切にする設計者

Gさんは、実家を建替えるにあたって建築家Hに設計監理を依頼しました。ホームページで作品を見て、とてもおしゃれで気に入ったのです。報酬は工事費の●%と言うことで、HPに書かれているとおりです。2人目の子供が妻のおなかにいるので、Gさんは急いで契約しました。

何度もHの事務所に通い、打ち合わせを重ねて設計が完了し、工事が始まりました。

妻の出産があって、好天の土曜日、しばらくぶりに完成直前の現場を覗くと、想像以上に素敵な佇まいです。おおいに気に入って、上機嫌で中に入りました。中庭に向いて、2階にも大きな窓があってとても明るく、妻は大喜びでした。でも「?」と思いました。2階の大きな窓を開けると、下は庭のデッキです。監督さんに「手摺まだなんですね」と言うと、「手摺は無いんです」と答えられてびっくりしました。「設計図に手摺がないので、H先生にどんな手摺にしましょうかってうかがったら、手摺はつけないと指示されたんですよ」とのこと。「先生のイメージに合わないんですかねぇ」とも。

これでは子供だけでなく、大人にとっても危険です。その場でH事務所に電話すると丁度建築家Hが居て、「手摺をつけたらイメージが壊れるんですよ。見ていただいた模型にも手摺は無かったでしょ」と言われました。模型に手摺があったのか無かったのかGさんは思い出せませんでしたので、「それでも小さな子供も居ることですし」と丁重に頼みました。するとHは「どうしても危険だと仰るのなら、窓をあかないようにしましょうか」と言います。横にいる妻にいうと、「窓が開かないと、風が通らないじゃないの。それにガラス掃除はどうするのよ」と言います。これにHは「プロのお掃除を頼めばいいじゃないですか」と答えました。

言葉を失ってしまったGさんは、「すみません、ちょっと考えさせてください」と電話を切り、「でもまぁ、手摺だけのことだし」と気を取り直して、も一度家のあちこちを見て廻りました。

玄関ドアは鉄製の枠に1枚ガラスという素敵なデザインで、でも透明ガラスなので道路から中が丸見えです。カーテンか何か工夫すればいいのだろと思ってふと足元を見ると、鍵が付いています。床の近くに鍵が付いているのです。へぇっと思ってドアを見回しても、他に鍵はありません。施錠した状態でハンドルを引こうとするとガタガタします。真ん中に鍵をつけて欲しいと監督さんに言うと、「タテガマチが細すぎて、ケースが入らないんですよ」と言います。Gさんには良くわかりませんでしたが、「どうしても無理なんですか?」と訊くと「メンツキ錠なら付けられるんですが、先生がOKなさるかどうか・・・」と言います。

奥行きの深いシステムキッチンの向こうに出窓があります。普通の引き違いではなく「すべり出し窓」と言うのだそうで、窓辺がすっきりして綺麗です。でも、妻には開閉することが出来ません。手が届かないのです。監督さんに「開閉はどうするんですか」と訊くと、「オペレータを付ければいいんですが、今からだと露出になりますんで、先生がOKなさらないんじゃ・・・」と言います。

家に帰って、気になったところをメモにしてH事務所にメールしました。

翌週のHからの返信にはこう書かれていました。「お申出の趣旨を生かすと、私のイメージからは大きく外れたものになります。変更されるのはご自由ですが、竣工写真撮影完了までお待ちください。なお、追加工事費用は▲万円で、これに私どもの報酬●%を加え■万円必要ですので念のため申し添えます。」

追加工事に設計監理報酬を請求することは、設計事務所にとってなかなか高いハードルであります。しかも、自分は了承できないからやるんだったら勝手にせぃ!と言いながらきっちり請求するなんて、同業として見習わなければいけませんね・・・なぁんて、んな事ないでしょ!

建売住宅の欠陥工事の責任を取った設計者

Dさんがこの建売住宅に住み始めて数年経った頃、お隣から「お宅、ムシ湧いてんのんちゃう?」と言われました。お隣との境界付近を見てもムシは判らないのですが、駐車スペースにある独立柱の根元のタイルが落ちかけています。売主に電話しましたが一向に見に来てくれそうにないので、近くの工務店にタイルの貼替を頼みました。

気軽に来てくれた工務店のオヤジは「この柱、腐ってんのんちゃいまっか」と言い、一番下のタイルを剥がしにかかったところ、いとも簡単にタイルが、しかも下地から剥がれてしまいました。そして柱の根元が露わになったのですが、なんということでしょう!基礎がありません! 柱が土間に直接建てられていて、柱脚はすでにゴソゴソなのです。

オヤジは尚もタイルを剥がし続けました。土間から50㎝ほど剥がすと、別の柱が見えました。つまりこの柱の下部は継ぎ足されたもので、本来必要だった基礎立ち上がりが無いにも関わらず柱の長さは他の柱と同じだったので、宙に浮いた状態だったのです。そして現場は柱を継ぎ足し、基礎がないから土間に固定して、そしてコンパネを巻いてタイルを貼ったのです。

怒り狂って売主に電話しましたが、まったく埒があきません。憤懣やるかたないDさんは「訴えたる!」と弁護士に相談しました。弁護士は「訴訟するとしても被告の資金力を調べないと」と、Dさんに関係者の名前を調べてリストにするよう指導し、売主・建築主・設計者・監理者・施工者が判明しました。売主と建築主は同一の建売業者、設計監理は建築士事務所Eでいずれも現存していますが、施工者は、経営危機の噂のある工務店でした。弁護士は建売業者と工務店の資産を調査すると同時に、懇意にしている建築士Fに建築士事務所Eについて問い合わせました。

FはEとは面識がありませんでしたが、設計監理者として何らかの対応をお願いできないかと頼んでみました。Eは、独立直後の仕事で、監理するつもりがないのに建築確認上の監理者になったことを認め、自分の責任としてまず工務店に協力を要請しました。けれど工務店は経営的にそれどころではないとすげない返事です。でも建売業者が「考えてみる」と返事したので、建築士事務所EはDさん宅を訪れて陳謝し、改修したいと申し出ました。そしてDさんは、それまでの怒りの対象が建売業者だったのに、見ず知らずの設計事務所が動いてくれると言うので、ホントかな?と思いつつも「よろしくお願いします」と言いました。

建築士事務所EはDさん宅を詳細に調査し、改修費用を算定して建売業者に提出しましたが、想定をはるかに超える金額だったことから、工務店に責任を取らせようと、建売業者は前言を翻しました。けれど工務店の協力を得られる可能性が極めて低いことを説明すると、建売業者は「なんで、うちだけがかぶらなあかんねん!」と態度を硬化させました。Eはたまらず「自分も半額負担しますから」とまで言いましたが、建売業者はうしろを向いたままで、それ以上耳を貸そうとはしませんでした。

Eは、今では官庁の仕事をコンスタントに受注するようになり、スタッフも抱えています。ここでDさんに訴訟されると、せっかく軌道に乗った事務所に傷がつきますし、なによりも自分に「よろしくお願いします」と頼んでくれたDさんに申し訳が立ちません。一念発起して、E単独で改修することを決意し、懇意にしている工務店に協力を要請しました。工務店の社長はEの意気込みに感心し、利益を度外視して協力することを約束してくれました。

EはDさん宅を訪れて経緯を報告し、単独で改修することを説明しました。D夫人は仮住まいを用意して欲しいと言いましたが、Dさんが「ほんまはEさんよりも建売屋や工務店が負担せなあかんのに、それをひとりで被ろうとしてくれてるんや。協力したげなあかん!」と説得してくれました。

その後の改修工事は順調に進み、D夫人も現場にお茶を出してくれるなどわだかまりも無く工事を終えることが出来ました。

Eさんは、若い建築士です。いつもカバンいっぱいに詰め込んだ資料を持ち歩いて仕事しています。名義貸しをした事実は反省すべきことですが、そのことと正面から向き合って解決できたことは、仲間として誇りに思います。

新米の設計スタッフと新米の現場監督

前面道路が緩やかに傾斜している郊外地。3階建ての1階には駐車場があって、その奥に玄関。少しデザインを感じさせるAさんの住宅です。

傾斜道路の低い位置から駐車場に入るようになっているのですが、家相を気にする両親の意見で決めた配置ですし、設計事務所に設計を依頼し地元のしっかりした工務店に施工して貰ったので、水はけは問題ない様にしてくれているとタカをくくっていました。

引っ越してしばらくして大雨が降りました。2階の窓から見たら、前の道路を雨がサラサラと流れています。朝食を終えて出勤しようとしたとき、Aさんはアレッ?と思いました。玄関の床が濡れているのです。吹き降りの雨が入ったのかなと思ってドアを開けたら、ポーチには水溜りがありました。沓摺の外に、ひたひたと水が迫っています。駐車場とポーチにはレベル差はなく、ポーチと玄関には沓摺分の段差しかありませんから、道路を流れた雨が駐車場からポーチに流入したのです。道路には側溝もありますが、大雨を収容しきれなかったのでしょう。

工務店に電話したらすぐに駆けつけてきて、「土嚢を積みましょうか?」と言ってくれたのですが、その頃には小降りになっていましたので断りました。でも「これからもこんなことが続くんだったら困るなぁ」と言うと、若い監督Bが「設計の先生に言うたんですけど、まったく問題ないって言わはったんですよ」と言います。

Aさんは思い出しました。設計事務所に設計は依頼したのですが、予算の関係と地元工務店の施工だということで、監理は頼んでいなかったのです。でも、着工前後には工務店をきちんと指導してくれたと聞いていましたし、金融公庫の中間検査にも立ち会ってくれました。さすがにボス先生は地鎮祭に来てくれただけでしたが、若いスタッフを充ててくれていましたから、安心していたのです。この駐車場水浸し状態を予見できなかったのでしょうか?

結論から言うと、工務店が現場に乗り込んで最初に行なったレベル測量の問題でした。
設計事務所は、道路勾配がさほど大きくもなく宅地はフラットでしたから、レベル測量をしていませんでした。それで、現場監督がFAXしてきたレベル測量メモに基づいて、スタッフがGLポイントを電話で指示したのです。

Point1:スタッフは、一度も現場に来ることなく図面を作成していました。図面には宅地レベルを設計GLとして記載するのみで、道路や隣地の事は表現されていません。つまりこのスタッフは、緩やかな傾斜地であることを知らなかったのです。

Point2:現場監督は、測量結果を早く知らせようと、現場で作成したメモをそのままFAXしていました。道路の高い位置は1,200、低い位置は1,500、宅地は1,400という具合です。
スタッフは、実は新卒の入社早々で、レベル測量結果の見方を知りませんでした。数値の大きいほうを高く小さいほうを低く、つまり標高と同じように解釈していたのです。それで高低差を、真逆に判断したのです。そして現場監督は、設計事務所の指示だからと異論を唱えず、また会社に相談することもしませんでした。

これは工務店と設計事務所の少なくともどちらかが若手をサポートできていれば、回避できた問題です。後日、双方の協力で、宅地内の雨水排水処理を大幅に改善したと聞きました。設計事務所の法的責任がどうなのかは意見が分かれるところでしょう

新築住宅の、なぜか改修工事

物静かで上品な奥様。

北摂の住宅地に、有名ハウスメーカーに依頼して一戸建て住宅を建てた。神経痛の持病があり、ちょっと奮発して全館空調を頼んだ。

初めての冬が来て、床暖房もつけているけれどどうも冷えるなと思い、ハウスメーカーに問い合わせても、あまり良いとはいえない対応を繰り返すばかりだったので、空調機のメーカーに電話したらすぐ来てくれた。機械の調子はどこも悪くないといい、「断熱性能が悪いんじゃないですかねぇ」と言って帰ってしまった。

そのとき気付いた。建てる時に頼んでいた性能評価はどうなっているんだろう?

またハウスメーカーに電話して尋ねると、「そのようなお申込は頂いておりません」という。彼女は、海外で所帯を構える娘にこの家を残したかった。というより、自分が死んだら娘がこの家を売ればいいと考えていた。それで、資産価値を高くしておきたかったから、性能評価を依頼したつもりだった。

ハウスメーカーから「今となってはどうしようもない」といわれたが、諦めがつかない。折り良く来た銀行の外交に相談したら、数日後、カラー印刷の書類を持ってきてくれた。
「インターネットで調べたら、こんな会社があるんです。性能評価がどぅのこぅの書いてあるようですし調査もしてくれるようですから、一度話を聞いて見られたら如何ですか?」

電話したら、1週間ほど後に来てくれた。銀行の外交が見せてくれた書類に出ていた××先生らしい。
なにやら沢山の機材を持ってきていて、あちこち色々調べてくれている。彼女が抱いた疑問は空調と断熱のことなのに、外部にも随分時間をかけて調べている。ほぼ一日がかり。
作業を終えたようなのでお茶の用意をしていた彼女に、××先生が「随分傾いていますね」 いきなりそう言った。
「この家、傾いているんですか?!」驚いた。
「まず、外壁が傾いています。それから床も。このまま放置すると危険です。改修させないといけません」
「でも、まだ1年も経っていないんですが」「そんな事関係ありませんよ。瑕疵のある住宅は、すぐに傾く例もあります」
「でも、今までまったく気付きませんでしたけれど・・・」
「若い方なら敏感ですけれどね、まぁ個人差もありますが、これは酷いですよ」
頭が真っ白になって立ち尽くす彼女の前で、調査につれてきていたスタッフらしき人間達と小声で話している。
「よく、僕のところにお電話をいただけた。僕でよかった。他所の連中だったら発見できなかったと思うよ」
狐につままれた気分で、コーヒーを勧めた。
「僕のことを、どこでお知りになったのか知りませんが、よくご連絡を頂いたことです。この家の瑕疵はなかなか難しい。」
「瑕疵・・・ですか!」
「でも、僕は瑕疵調査に慣れていますからね、僕の目はごまかせないんですよ。早急に改修させないといけませんよ」
「でも、改修させないといけませんって仰られても・・・」
「この家は○○ホームですよね。僕はあそこの役員と懇意にしていますから、交渉してあげましょうか。何度かこの会社の瑕疵改修を指導しましたが、僕の言うことだったら聞いてくれます。」

なんて親切な人だろうと感激し、「お任せします。よろしくお願いします」と依頼した。

しばらくたった土曜日、東京からその役員がやって来た。
「平日は会議ばかりでなかなか会社を出られませんで、遅くなりました」と丁重な挨拶の後、「××先生からお話を聞いてびっくりしました。弊社のお客様にこのようなご迷惑をおかけするとは、誠に申し訳ございません。すぐにでも改修させていただきます。」
彼女には、家が傾いているといわれても未だに分からなかった。ただ暖房がきっちりできればいいのだけれどと思ったが、役員が、しかも東京から飛んでくるというのは並大抵の問題じゃないのだろうし、皆が大問題だというのだからそうなのだろうと、自分を納得させた。
「僅かな間ですが、仮住まいに引っ越していただかないといけません」
「えぇっ!引っ越すんですか!」
「お住まい頂いている状態ではなかなか難しいものがあります。それに危険ですしね。どこかお心当たりはお在りですか?」
「はぁ。近所に今まで住んでおりました家がそのままで」
「そうですか、では出来るだけ早く引っ越していただいて・・・」
横で聞いていた××先生が「僕がきっちり指導しますから、ご安心下さい」という。
「で、どれくらいかかるんですか?」
「ま、3ヶ月くらいでしょう」
「3ヶ月も!?」

引っ越してすぐに工事が始まったようだ。お医者に薬を貰いに来たついでに寄ってみたら、家の周囲にぐるっと足場とシートが設けられていて、中の様子は分からなかった。静かなので、今日は作業は休みかしらと思ったが、危険だと聞かされていたので近寄らなかった。

約束どおり3ヶ月程たって完成した。東京からまた役員が来て、
「永いことご苦労をおかけしました。今度は完璧ですから、安心してお住まい下さい。いや、完璧というより、以前より高性能になったかもしれない位ですので」
「ご親切に有難うございました。費用のほうはどの様にさせて頂いたらよろしいのでしょう?」

「何を仰るんですか。ご迷惑をおかけしたのは弊社ですから、費用をご負担いただこうなどとは考えておりません。」
「でも、なんだか大工事だったみたいですし・・・」
「いやいや。本来なら、仮住まいや二度のお引越し費用もこちらでご負担しなければいけませんのに、甘えさせていただけるだけで充分です。」
「でもそれでは・・・」
「いや本当に。こんなことがマスコミに知れたら、下手をすれば事業本部長の首が飛ぶかもしれません。その前に、××先生に厳しいご指導を頂くことができましたので、私共としては大変ありがたいことだと思っております。」
「でもそんな訳には・・・」
「そこまで仰っていただけるんでしたら申し上げますが、・・・。××先生のことなんですが、弊社からは勿論ご指導いただいた費用をお支払いたしますが、奥様からも何がしかの御礼をしていただけると有り難いのです。なにしろあの先生は瑕疵の調査に関しては第一人者で、でも消費者の味方だと仰ってボランティアで動いておられましてね」
「それは勿論させていただきます。でも如何ほどお支払したらいいのかわかりません。教えてくださいな」
「そうですねぇ、先生が現場に来られたのは週一度ですが、その間に弊社の現場監督に先生の事務所でご指導いただいておりますので、ざっと月8回。これが3ヶ月ですから24回ですね。」
「24回と言われましても、1回如何ほど・・・」
「若手でしたら5万円くらいでしょうが、××先生ほどになると・・・もぅ少しお高いんでしょうなぁ。しかしね、弊社からきっちりお支払いたしますので、奥様はお気持だけでいいんじゃないでしょうか」
「承知いたしました。」
「あの先生にこうして弊社の瑕疵を見つけていただいたから、奥様にも穏便に済ませていただけたわけで。こんなことがマスコミに漏れたら、うるさいですからねぇ。特に最近は株主がねぇ・・・」

という次第で、彼女はこの家に戻ってきた。
隣の奥さんが「どうしてたの?」と聞いたが、役員が言っていた「マスコミに漏れたら・・・」が気になり、詳しくは語らず「ちょっと工事してもらってたの」とだけ言った。
「そぉ。足場が出来てたからね、外壁でも取り替えるのかしらって主人と話してたんだけど、外壁は・・・替わってないよねぇ。」
「えぇ、外壁じゃないのよ」
「そぉか、内部をさわってたんだ。でもさぁ、最近の工事って凄いよね」
「何が?」
「昔はさぁ、ちょっといじるって云っても凄い埃と音だったでしょ。でも静かだったわよ。工事やってるなんて思えなかった。」

元通りの生活に戻った。
内外装の色味は以前と寸分違わない。照明器具も全て元通りに設置されている。あんな大工事をやったなんて信じられないくらい。さすが大手メーカーね。
次の秋が来た。全館空調をONにしとかなきゃぁとスイッチを入れた。でも今夜は冷えるな。
翌日も、冷えがこたえた。空調、効いてないわ。また空調機のメーカーに電話した。といっても今度はメンテナンス部門だ。すぐ来てくれた。
「前回訪問させていただいた時の記録には、断熱不足の可能性有りと書いてあるんですが。」「えぇ。でもね、大改修して下さったから、もう大丈夫だと思うんですけれど・・・」
「大改修?」
「そうなんです、ここを建てたメーカーがね、無料で大改修して下さったんですよ。」
誇らしげに言った。
しかしそのメンテナンス担当者はきょとんとした表情でこぅ言った。
「断熱不足というより気密の不足ですね」
「気密って?」
「隙間風が無いという意味です」
「それなら、外側を足場ですっぽり覆って改修してくださったんですから・・・」
「どこを改修されたんですか?」
「どこって・・・」
「ほら、ここに手をかざしてみてください。風を感じるでしょ。隙間風でしょ」

同窓会で、弁護士をやっている同級生に出会ったので、一連の不思議を話した。弁護士は「俺は建築はわからん。建築士に見てもらうといいよ。」と、知り合いの一級建築士を紹介してくれた。
一級建築士は、弁護士から詳しい話を聞いていなかったので、最初に1時間ほど、いきさつを話した。
「傾いていたの?」
「そう言われました」
「あなたは傾きを感じていなかったの?」
「私、鈍感らしくって」
「今は直ったの?」
「そう仰ってました」
「どこが傾いていたって?」
「外壁も床も・・・って」
「ふぅん」と云いながら、建築士は水準器という物差しを床に置いた。
「うん、少しだけ傾いているかな。でも傾きというより波うちかもね」

今度は壁に当てて、
「壁もちょっと歪んでるかな?」
外に出て、三脚のついた機械で外壁を見ている様子。
「外壁も極僅かに傾いているけれど、施工誤差の範囲かもね」
と云いながら、外部をぐるっと廻って観察した。
「基礎も異常ないし、一体どこを改修してもらったの?」
「・・・?」
「改修工事に3ヶ月掛けたんですよね。でも基礎も外壁もさわった風には見えないし、屋内も、歪んでるといえば歪んでいて、つまり改修した痕跡が見えないです」
「はぁ・・・?」
「建築の瑕疵以外の問題があったかもしれないですね。弁護士さんに報告しときます。よく相談なさったほうがいいですよ」
と言い残して、建築士は帰った。
「建築の瑕疵以外の問題があった・・・?」
彼女は釈然としないまま戸締りをし、床暖房を高温に設定して夕飯の支度にかかった。

豪華マンションの地下漏水

とてもバブリーなマンションだ。下町の一角に、そこだけ別世界のよう。
まさしくバブルの頃に販売されたからもぅすぐ10年(相談時)。最初はオクション。超有名お笑いタレントが最上階に住んでいたとか。最上階は、その下の階の2戸分が1戸になっていて、住戸内に中庭まであるらしい。

エントランスにはホテルのようなフロントがあり、管理会社が常駐していて外来者をチェックしている。名乗ると「お待ちしておりました」と、丁重に招じ入れられた。奥は、立派なロビー。本革張りのソファセットが4セットあって、BGMも流れている。すぐに数人の理事が現れた。名刺交換してロビー奥を見ると庭園?・・・かと思ったが、かつて庭園だったろうと思わせる残骸。「これが問題かも」と依頼者。

挨拶もそこそこに一緒に元庭園に出てみた。穏やかな冬日和。空が明るい。奥の隣地境界沿いにはケヤキの高木をはじめ、まぁまぁの植栽が育っている。が、うぅ~ん、これって庭園じゃないよね。っつうか、造園計画無しに樹を植えただけという印象。

造園計画無しに植栽を設けるということは、建築計画無しに建物を建てることと一緒だよね。勿体無いなぁ。・・・

それでも土地柄からすれば贅沢な戸外空間。これでちゃんと造園家が関わっていたら、素敵な庭園になっただろうになぁ、そしたらこのマンションも、もぅちぃっとゆったりした雰囲気が持てたかもしれないし・・・と意匠屋根性が頭をもたげる。

ロビーの庭園側はピロティになっていて、これに半分掛るように、でっかい異物がある。地盤から80cm位の円形の立ち上がりのある邪魔物。「これが問題かも」と、また依頼者。

かつては噴水だったそうだ。入居が始まってから初めての冬に水道を止め、総会で水を抜くことを決めた。何故って、水道料金にびっくりしたから。上水道を垂れ流していたそうだ。「9年間このまま?」と訊くと「なかなか撤去できないんですよ」。

ロビーに戻って竣工図を見せてもらった。あれっ、地階がえらくでかい。ん?・・・そっか、元庭園の下にも地階があるんだ。えっ? 噴水の下にも地階が? 「そうなんです。地下駐車場が。」

案内されて地階へ。広い。機械室以外全域が駐車場で2段式。各戸1台以上確保されているらしい。へぇぇって感心してたら、キィッと車が出て行く。ジャガーだ。入れ替わりに入ってきた。BMだ。よく見たら、キャデラック、ベンツ、しかもその中でも高そうな車種ばかりが並んでいる。

地階の薄暗さに眼が慣れてきたら、あれ、天井スラブから金属トレイがぶら下がっている。「パン」だそうで、空調ドレイン管のような排水ホースもつながっている。しかも、あちこちに。

このマンションは、入居以来ずぅっとこの地下駐車場の漏水に悩まされている。
施工者は中堅ゼネコン。電話すればすぐに駆けつけるし、年に数回は様子を見に来るという体制を採っていたが、さすがにここ2~3年は間遠になり、電話しても動きが鈍くなってきた。

そして管理組合に対して曰く「パンを、今のように仮設的にぶら下げるのでなく恒久的なものにさせて頂く」と。

理事会は「瑕疵担保期間が満了するから、これで勘弁してくれということなんでしょうがねぇ・・・」と当惑している。

ちょうど大規模修繕の時期に近づいている。「その工事を発注したら、根本的な改善をしてくれそうな気配もあるんですが、何がいけなかったのか原因も言ってくれないので、云うとおりにして大丈夫かどうか、信用できないんです。」漏水といえども、雨の日に漏るんじゃない。

雨の数日後、水とともに白華が垂れてくるのだ。駐車場奥の外壁を見て頂戴と案内された。確かに激しい白華が見られる。そして数箇所の注入痕も。でも今は別のところから垂れている。
管理会社の人が「パン」を外してくれた。白華の塊と若干の水滴。雨が降ったのって数日前かな。「水滴は結構長く続くんですよね」 それにしても汚い。地下駐車場ってそもそも雰囲気よくないし、蛍光灯の青暗いあかりに照らされた打放しとモルタル。そしてなんとなく湿気っぽいにおいまで。

管理会社の人が「昨日見つけたんですが」と別の場所に移動した。空いている2段駐車の天井に、新しそうな白華。理事長が尋ねた。「ここ空いてる区画ですか?」「いいえ、○○さんの区画です」理事長の表情が変わる。「えぇっ。○○さんって・・・あの人の車、確か1千万以上するんじゃぁ?」「そぅですよ! 日本に数台しか無いって聞きましたよ」「えらいこっちゃ! すぐにパンつけて貰ぉ!」「最近は電話してもねすぐには来てくれないんです」「じゃぁ、ともかく区画を替わってもらいましょう」「・・・○○さん怖いんです」「判りましたよ、私からお願いしてみます」

「パン」を設置するまでに、白華の被害で、既に数台の車に弁償しているとの事。幸か不幸か国産車ばかりだったので、さほどの金額にはならずに済んだそうだが、今回は違うと怯えておられる。

理事会では、ゼネコンに防水のやり替えをさせようという考えだったらしい。ちょうど大規模改修の時期も近いし、基本はゼネコンの負担で、それに修繕積立金をちょっとonするって言えば、ゼネコンも納得するかもしれないし・・・。

「理事長。最近ゼネコンは高姿勢ですよ。」「そんなこというても、雨が漏るのはゼネコンの責任でしょ」「それはそうなんですけどね、営業会議でね、この建物の大規模改修は『いらん!』って方針になったらしいんですよ。」「どぅいぅこと?」「勿論正式の話じゃないんですけど、10年経って担保期間が過ぎたらこの建物から手を引こうというつもりらしくて・・・」

揉めたらしい。凄く凄く揉めた・・・らしい。

「ピロティと庭を全部やり変えてもらったら、防水も全部ちゃんとなるんでしょ。」
「うちは以前からの車にまだ乗ってますけど、これじゃぁ新車には買い替えできませんよ。」
「△△さん、車から荷物降ろしてるときにポタッときたそうですよ。」
「えぇっ!荷物に?」
「いいや、服に」
「管理組合からすぐに謝りに行きましたよ」
「弁償は?」
「普段着だから、いぃって」
「ゼネコンは?」
「そりゃぁ謝りに来ましたよ」
「ピロティやり替えるんだったら、その時に噴水も取ってしまえばいい。」
「ここのお庭ってなんか暗いですよね。」
「イングリッシュガーデンになればいぃな」
「それって、大工事ですよ」
「いぃじゃないですか、どうせ子供達もあまり外に出ないんだし」
「そうよね、友達のマンションなんかお花見やクリスマスや、それから七夕も」
「ガーデンパーティができるようなお庭がいぃな」
「せせらぎがあれば蛍が・・・」
「街中なんだから無理ですよ」
「せせらぎ作ったら噴水と一緒やん。水道代高いよ」
「噴水は駄目よ」
「管理人さん、空っぽの噴水の中の掃除が大変だって」
「やっぱりイングリッシュガーデンよ」
「だれがお庭の世話するの?」
「管理人さんか・・・専門の人いれてもいいじゃないの」
「お庭が綺麗になったら、資産価値上がるかなぁ?」
「これだけ迷惑かけられてるんだから、ゼネコンにちゃんとやってもらいましょうよ」
「あんなトコ、任しておいて大丈夫?」
「でもまだ担保期間なんでしょ」
「せやけど動きよれへん」
「云うだけ云わんと」
「云うてますよ!」

結局のところ、殆どがオクション購入者だから、「逃げに掛かってるようなゼネコンだから、アテにならないよ」という意見が大勢を占めた。大変な工事になるから、道路から改修工事をやっている様子がわかる。下手をすると「瑕疵マンション」と云われて資産価値が更に下がるんじゃないかという意見も出てくる。ただでさえ買った時の半額に落ちているのに、これじゃぁ売って引っ越すことも出来なくなる・・・と、・・・結局金持ち喧嘩せず。

けれど漏水があることは事実で、このまま「お構い無し」とするには少々気持が収まらないという雰囲気は残り、いくばくかの賠償金を払わせて、あのゼネコンとは手を切ろうということになった。

手続としては、訴訟提起。すぐに付調停になって、そこで出てきた話だが・・・

防水業者がしっかりしてたら、ゼネコンも、も少しマシな対応ができたのだけれど、この建物竣工直後に倒産してしまった。現場所長に訊いたら、「非常に特殊な防水で、訳が分からんのです」という。「何故普通の防水にしなかったのか」と問いただしたら、「その防水業者がメーカーと一緒になって強力に営業を掛けてきて、メーカーは新開発の商品だから原価でさしてもらうと云うたから」と。メーカーが先に倒産して、あとを追っかけるように防水業者も倒産した。新開発の商品だということで、詳細な情報も今となっては得られず、ゼネコンとしては窮している。「正直に申し上げれば、今考えられることは1階スラブ上の防水を全てやり変えることですが、そんなこと会社には云えませんし・・・vv;」

勿論、訴訟提起までに簡単な調査は行なったが、現場所長が「訳分からん」というものを簡単な調査で明らかにすることなんぞとても無理。

影響なさそうな部位で押さえコンクリートをはつってみたら、ゼリー状の層が出てきた。手に取ると意外とさらさらしていて、粘性もない。まるでお粥。分厚い押え層に押し潰されているところもある。これで防水にはならんやろ!と思っても、調べようも無かった。ゼネコンはそれなりの会社で、まさか「訳分からん」とは!

管理組合側は、どうせ大規模改修の時期だからとあまり高額の賠償を要求せず、早期に和解が成立し、その後3年程度で予定通り大規模改修工事を行なった。訴訟に携わった住人は、そして誰も居なくなった。

やっぱり、金持ち喧嘩せず・・・かな。