建築相談の瑕疵:悪質建売住宅購入者の相談に対して(その2)

~「その1」からのつづき~

【まずは不動産屋さんに相談】

翌日、世話してくれた不動産屋に電話した。

そして数日後、売主の建売屋を連れてきた。こともあろうか「奥さん、建売やねんからね、こんなもんでっせ! 安ぅしましたがな!」

主人は・・・怒った。「息子にまで負担をかけて買うた家なんや。そんな阿呆な話あるか!」

翌日、会社を抜け出して役所に相談に行ったら、「建築士さんに見てもらいはったら?」と助言してくれた。

【建築士が調査に来た】

そして、近くの設計事務所だという建築士が調査に来てくれた。これでなんとかなると、主人も会社を休んで待ち構えていた。主人と同年くらいの、なかなかシャキッとした建築士で、「まずはお茶でも」と勧めても応じない。道路から眺めた後、2階に上がって「何処が歪んでるんですか?」と訊いたので、パチンコ玉を転がして見せた。3階にも上がった。同じようにパチンコ玉を転がした。建築士は何も言わない。でも判ってくれた・・・と思った。なんとかしてくれる・・・とも思った。

建築士は3階からそのまま1階に降りて、そのまま道路に出た。「えっ、もぅ終わり?」と思った。「えらい早い。でも一級建築士なんやから、ちょっと見ただけで判るんや」と、お見送りに出たら、「建売やからねぇ、こんなもんですよ。あんまり気に病まんと」

なんということだろう!

すがる様な思いで来て貰った建築士に、あろうことか建売屋と同じ事を言われ、主人は大きく傷ついた。それまでの怒りが自信喪失に変わった。情けなかった。少なくない費用を負担して来て貰ったんだから、もっと親切だろう、もっと丁寧に見てくれるだろう、いっぱい相談できるだろうと期待していた自分が甘かった。馬鹿だった。

女性は、主人の憔悴を慰めることは出来ず、でも何もせずに見ていることは出来なかった。

そして・・・ここに相談に訪れたのだ。

【別の相談会へ】

女性の話を聞いて、内心では、建築士の言葉が気になっていた。いくらなんでも、建築士としては「こんなもんですよ」は言わないだろう。このご家族が相当神経質なんじゃないかな・・・と思いつつ、弁護士同行で調査に赴いた。

大通りから路地に入ったとたん、依頼者の家が判った。

・ 道路に面した2階バルコニーが、中央で明らかに撓んでいる。

・ 道路面の外壁が道路側に傾いている。・・・ん? 

・ バルコニーが、両隣より相当出っ張っていて、アレっ? 明らかに道路側溝より出ている。

目視で、しかも一瞥でこれだけ問題点が見えるのは珍しい。

1階はRC打放で2・3階が木造。バルコニーは木造の跳ね出し。1階の道路側は全面開口。柱型は無い。

「昔あったよね、基礎立ち上がりを高くした3階建て」そう思いながら1階UBの天井点検口から覗いたら、案の定。1階は外壁が立ち上がるのみでスラブが無い。しかもその外壁の厚みは12cmしかない。

2階・3階の床の傾きは相当なもので、「坂」を感じさせる。サッシは施錠出来ないし、床には1/4円形にドアの軌跡が刻まれている。

建築確認の副本は無いし、重要事項説明書にある敷地面積は、どう考えてもこの家が入りきらない狭いもの。念のために登記簿を調べてくださいといいつつ、そんな馬鹿なことが起るはずがないと、実のところは信じられなかった。

女性がおもむろに話し始めた。

奥の家から文句が来たからと、町会の役員さんが来たそうだ。

「お宅が道路にはみ出ているから、何とかして貰うて欲しいて言うてはりますねん」

女性は驚いて、「うちね、2階が傾いてるから道路にはみ出てるかもしれへんけど、1階はそんなことないから。」

「ちがうちがう! 1階から出てるやん! いやっ、知らはらへんのん? お宅の両隣の家がね、あれが元々の道路一杯なんよ。ほんまやったらセットバックせなあかんねんけど、そこまで言われへんからね。せやけどお宅はね、元々の道路に、もっと出っ張ってんねんよ! 奥の家ね、車持ってはるでしょ。通りにくいから言うて、お宅のお向かいのおばあちゃんに頼んで、植木鉢どけて貰わはったらしいねん。奥さん、聞いてはれへんのん?」

家が揺れるとか傾いているとかは、補修すれば何とかなる。でも敷地からはみ出した家なんて・・・。

「前に来てくれた建築士は何やったん?!」 何が「建売やからねぇ、こんなもんですよ」やのん!

家族は怒り狂った。長期のローンを組んで購入した家がこんな状態だというだけでも大変なのに、それに追い討ちをかけるような建築士の言葉。

建売住宅事業主やこれを建てた工務店や設計事務所や・・・。全部が憎い。でも今一番憎いのは、最初に来た建築士。

私たちが帰り際に、女性が言った。

「お宅らは、前に来た建築士さんとは違うんですよね。あの建売屋を、ちゃんと相手にしてくれはるんですよね」

:==========

最初にこの家を見に来た建築士は、この業者の知り合いだったかもしれません。でないと、少なくともこの明らかな歪みに気づかないはずがありませんし、ましてや「こんなもん」という慰めの言葉が出てこないと思います。

相談の瑕疵だと思いました。

このご家族に、別の相談会を訪れる気力が残っていたから良かったものの、もしそこで疲れ果てていたらどうなったのでしょう。

その後、この建築士が相談対応したと言う話は聞きません。

相当こたえたのかもしれませんね。

建築相談の瑕疵:悪質建売住宅購入者の相談に対して(その1)

【プロローグ】

中年の女性が不服そうな顔つきで相談に訪れた。

「どうなさいました?」いつものように尋ねる。

女性:3年ほど前に家を買うたんですけどね、歪んでる・・・

担当:歪んでるって、どんな感じですか?

女性:歩いてても、座ってても・・・歪んでるんです。

担当:ふぅ~ん。ご家族もそぅ仰ってますか?

女性:それがね、主人も息子もずっと歪んでるて言うてたんですけどね・・・

担当:慣れてしまった? それとも気のせいだって思うようになったとか?

女性:いや、そんなこと無いと思います。ほんまに歪んでるんですもん。鉛筆転がるんですよ。

担当:鉛筆が転がる・・・それやったら、傾いているかも知れませんね。床はフローリングですか?

女性:そうです。

担当:フローリングやったら、結構転がりやすいですけどね。

女性:せんせ、違うんです。そんなことやない。ほんまに歪んでるんです。

担当:ふぅ~ん。せやけど、ほんならなんでご主人も息子さんも・・・

女性:それですねん。ふたりとも男やからね。

担当:えぇっ?

女性:いやね、ふたりとも男やからね、強がってるだけですわ。

新築住宅を買う】

永く公営住宅に暮らしていたが、息子も就職するようになって少し生活費を入れてくれるようになった。狭いし、広いところに引っ越そうかという話になった。

女性は、パート先の近所にある不動産屋の出した折り込みチラシを保管していた。つまり、家を買いたいと思っていた。なかなか言い出せなかったが、引越しの話は息子から出てきた。「狭すぎるやん」主人はむっとした様子。女性は躊躇しながらも、恐る恐るチラシを出すと「なんや、お前も考えとったんか」と驚き、「うちにそんな金あんのんか?」と訊いてきた。女性はパート勤めをもっと頑張るからと言い、息子は毎月の生活費を増額してもいいと言ってくれた。そして、「お前らがそない言うんやったらなぁ。定年を過ぎても今の会社に嘱託で残れるよう社長に頼んでみるわ」と言ってくれた。乗り気になってくれたのだ。

良好な環境とは云えないし、庭もぜんぜん無い。でも、3階建てだからゆったり住める。主人の会社には歩いて行けるし、パート先は自転車ですぐ。バスしかないから息子の会社にはちょっと不便だけれど、転勤する友人が自動車を譲ってくれるという話があって、ここなら1階に車も置ける。経済的にはしんどくなるけれど、親子3人力を合わせたらなんとかなる。・・・と、決断した。

引っ越してすぐの土曜日、珍しく家にいる息子と3人で昼食をとっていたら、グラッと来た。「地震か?!」テレビのテロップを待ったけれど、何も出てこない。・・・「?」

そんなことが続いた。そしてそのうち、大型トラックの振動だということに落ち着いた。前の道路は3mほどで、住んでる人間しか通らないから静かだが、10mほどで大通りに出る。主要地方道とかで、交通量は結構多い。

なんとなく納得して、2年が過ぎた。息子が、1週間ほどの出張から帰ってきたときに、「うちの家歪んでない?」と切り出した。「何言うてんの、あんた疲れてるんやろ、早うお風呂入って晩ご飯食べ。」

いつもより長風呂して2階に上がってきた息子が「お母ちゃん、なんか丸こいモン無い?」といい、「鉛筆でもえぇか」と渡したら、床に置いた。何もしてないのに道路側に向かって・・・転がる。「えぇっ!」「お母ちゃん、パチンコ玉無いか?」「そんなん無いわ」と、会話を聞きつけてご主人が「あるでぇ」と数個のパチンコ玉を出した。床に置いた。一斉に道路側に転がった。

「建売やからなぁ、新築や言うたって多少のことはあるで」と主人は何故かとりなすように言った。その言葉で、触れてはいけないことのような印象を持ってしまい、家族の間では話題にならなかった、というか、話題に出来なかった。

しばらくして、乳酸飲料の販売員がピンポーンと訪れた。息子と同い歳くらいに若い。「うちは小さい子供も居ないから」と断ったら、ボソッとした声で「奥さん、この家歪んでないです?」と言うから、「あんた、私が断ったからいうてそんなこと言わんでもえぇんちゃう!」と、怒った・・・が、傷口に塩をすり込まれたような厭な気分になった。

帰ってきた主人にこの事を伝えたら、「ワシもなぁ、ちょっと思うとってん」と言う。