住まいの相談:中古マンションを購入した女性の物語(その4)

(その3)からのつづき
数日後の穏やかな休日。ピンポーン。Kさんが初めてうちの部屋を訪ねてきた。
コーヒーでもとキッチンに立ったら「えぇから座って。ちょっと話が」と暗い顔。「あんたがこの前言うてはった断熱材のことやねんけど・・・」と、この、なんおともおぞましい話が始まった。

Kさんは、過去に理事をやったことがあって、その時に見たのを思い出したという、古い書類の話。
多分昭和の頃の書類。Kさんは偶然目にしたそうで、そのときは既に古びていた。宛先は理事長で差出人はこのマンションを建てたゼネコン代表取締役。社印もあったから正式書類。そして書面の内容は、【貴建物は重量鉄骨造で、耐火性能を確保するため構造部材にアスベストを吹き付けて・・・貴管理組合におかれましては、大規模修繕工事の機会に、これの除去をご検討されるべく・・・】
ん? アスベスト? あのアスベスト?
「大変ですね。このマンションって問題多いんですね」 「違う違う、いやそうなんやけど。あんたがこの前言うてはった断熱材やねんけどね・・・」 えぇぇぇ! あれが、ア・ス・ベ・ス・ト!?「そぅみたい。知り合いが建設会社に勤めててそいつに訊いたんやけど、どうやらそぅらしいねん」
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この建物は1戸平均40㎡強。子供たちが社会人になれば出て行きます。そして残ったのは40年位前に買った人々。お年寄り達です。だから殆どが高齢者所帯で、多くの方が年金で生活しておられるようです。
Uさんは理事長をもぅ5年以上勤めていて、その間ずっと共用部の掃除を続けていますが、これはUさんの現金収入の道になっています。
今、修繕積立金+管理費で戸当たり数千円しか徴収していませんので、管理会社は関与できません。ですから、最低限のメンテナンスにも支障を生じている状態。どこかに不具合が見つかったとしても、実際には動けません。
Uさんはここを愛しています。お迎えが来るまでここに居たいと言います。実際、阪神大震災でも大きな被害を受けませんでしたから、「私が死ぬまでは大丈夫でしょ。それまでもってくれたらいぃんやわ」と言います。「大きな事せんと、そぉっと住めたらいぃやん」と。
(完)

住まいの相談:中古マンションを購入した女性の物語(その3)

(その2)からのつづき
途方にくれていた或る日、3階に住んでいるKさんが声をかけてくれた。私より少し年上。このマンションはじいちゃんとばあちゃんばかりだから、面白くないのだそうだ。この人はもぅ20年位住んでいて、情報に明るいみたい。
・ 最初の改修工事は新築後15年目位に行なわれたが出来栄えが悪く、その後改修工事が頻繁に、でもちょっとづつ行なわれている。
・ 外壁改修と防水改修を交互に行なっている。そして防水改修も外壁改修も、ずっとB商会がやっている。
・ B商会は、実はSさんの弟。Kさんが「他からも見積とって見たら?」といったら、凄い目で睨まれた。結局修繕積立金の殆どがB商会に行ってる。
・ Kさんが引っ越してきた頃は修繕積立金はもっと高額だったが徐々に下がり、今は当時の半分。住人の多くが年金生活者で、それまでのような金額が払えないということになった。
・ 3年位前に積立金が底を尽き、今はどうしようもない。
聞けば聞くほど落ち込むばかり。悲壮感。絶望感。一体私はどうなるのよ!
藁をもつかむ思いでこの部屋を仲介してくれた不動産屋に行ったけど、
「あんた納得して買わはったんちゃいまんのん! 悦んではりましたやん。そんな細かいことまで知りまへんがな! 皆さんとよぅ話し合いなはれな」 もぅ、引っ越してしまいたいって言ったら「雨漏ってるんやったら、それ直さんと売れまへんでぇ」 いまさら実家には帰れないよ。こんな事知ったら両親はどんなに驚くか。がっかりするか。仕方ない。もうちょっとお金貯めて、自分でお金出して改修しよ。T社に頼んだら安くしてくれるかも。ボーナスを何回か諦めたら何とかなるわ。

台風の中、早めに会社から帰ってきたら雨漏りがひどくなっていた。バケツで受ける。

翌日は嘘のような晴天。雨は大嫌い。晴れがいい。恐る恐る和室の天井がどうなってるか確認したら、板と板の隙間がもっと拡がってる。天井が落ちてくるんじゃないかしら。ガムテープで止めとこ。テーブルの上に乗っかったら天井に届いた。ガムテープを・・・あれっ・・・隙間から綿が見えてる。そぅか、断熱材だ。

ひと月ほどたって、ずっと居間で寝ていたから和室を掃除しよぅとして、あれっ、畳の上に・・・綿? 断熱材が落ちてきてる。
数日後、会社から帰ってきたらエントランスでKさんに逢った。「雨漏り、どぉ?」 「酷いです。天井板の隙間が大きくなってきて・・・。そぅそぅ、断熱材がね、落ちてくるんですよ」、改修するときは断熱材からやらなきゃいけないね、等と話しあった。
・・・つづく

住まいの相談:中古マンションを購入した女性の物語(その2)

その1)からのつづき
そぅこぅするうち総会の案内が来た。ひとこと云わなきゃと、柄にもなく出席した。おじいさんとおばあさんばかりで、空気は老人会。もしかして現役世代は私だけ?! 
「私の部屋の天井に雨が漏るんです」 「?」・・・みんな固まってる。「雨漏りが・・・」 「防水改修終わってますよ」 「でもホントに雨漏りが」 「じゃぁSさんにお願いしときますから」 「Uさんから頼んでいただいたんですけど・・・」 「じゃ改めてお願いしときますから」
まったくあてにならないわ。でも、総会なのになんでお年寄りばっかりなんだろ? そっか、日曜日だもんね、若い人はみんな出かけてるんだ。
次の日曜日、実家から脚立を持ってきて、タラップに取り付いて一人で屋上を覗いてみた。最上階は私の部屋と両隣の3軒だけ。手摺が無いから怖くて上まで上がれない。顔だけ出して、眺めた。あれっ? 私の部屋の上と思える真ん中だけ・・・屋上の色が・・・違う・・・? なんで? 
訳がわからないけど、自分の部屋の上だけ、どす黒くて汚くて表面がめげてるように見える。最近改修したなんて思えない。でも判らないから、ネットで探し当てた防水メーカーT社に相談したら調査に来てくれた。なんのことはない、両隣はカバー工法とやらで改修されているものの、私の部屋の屋根だけやってない! 
どうして? 調査費用は私が個人的に負担しますって言ったせいか、T社は凄く同情的。なんか、うるっと来てしまう。
「普通はこんなやり方しません。共用部のことですから、管理組合に仰ったほうがいいですよ。両隣は確かに改修されていますが、真ん中のお宅をやってないのだから不完全である可能性があります。お隣に様子を訊いて見られたら如何ですか。」
でも、考えたらお隣はどちらも逢ったことが無い。空き家かしら?
Uさんに訊いたら、「賃貸してはるけど、今は空いてる」 T社の調査報告書を見せ、「どうしてこんなことになってるのか、うちだけほったらかしにされてるのか、説明してください。うちの家も改修してください。」と詰め寄っても、やっぱり埒はあかなかった。
・・・つづく

住まいの相談:中古マンションを購入した女性の物語(その1)

30代後半と思える、スレンダーな女性。仕事を持ち、独身。日常生活を堅実におくる風情が垣間見える風貌だがどこか暗い・・・というか憂いを見せる。
いつものように「どうなさいました?」から始めようとしたら・・・涙ぐんでる!
2年ほど前まで両親が住む古い家に同居していたが、徒歩15分程度にある中古マンションの一部屋が売りに出ていて買った。2DK。中層の最上階で、噂に聞く上階の音にも悩まされないだろう。日当たり上々・実家との程よい距離感・小規模マンションであることによるご近所づきあいへの期待・予算内に収まった価格など、満足感と希望を持って新生活をスタートさせた。築後30年以上でそれなりの時期に改修工事があるだろうと、その費用負担も自分なりに家計に折込み、つましい生活を心がけた。
とても静かな生活だった。子供の喧騒は無いし、近所の音も聞こえない。変な人間にも出会わない。自転車置き場もすっきりしているし、ゴミ置き場も決して散らかっていない、誇らしい毎日だった。

雨が降った。夜中、天井にテンテンと雨漏りらしき音で目覚めた。「あらぁ、雨漏りだ。中古だもん、しかないか。直してもらわないといけないな」と思い、休日に管理組合の理事長を訪ねた。おばあさん。まぁまぁお元気そうで何よりで、・・・あぁ・・・思い出した。時々階段のお掃除をしてくれてるおばあちゃんだ。
「いつもお掃除して戴いて有難うございます。」と挨拶の後、本題に入った。
「えぇ! 雨漏り? そんなはずないよ、ついこの前、屋上の改修したのに」 「そんなこと仰られても本当に漏ってるんです」 「そぉ、ほんなら云うとくわ」 「診てもらってくださいね」
翌週、おばあちゃん理事長を訪れた。
「防水屋はんな、そんなはず無い言うてはんねん」 「診に来てくれないんですか?! そんな馬鹿な! じゃぁ、Uさん(おばあちゃん)いっぺん診てもらえません?」 「そない言わはんのやったら、Sさんにもぅいっぺん言いますわ」 「Sさん?」 「うん、工事しはった防水屋さんね、Sさんの知り合いやから」
また翌週おばあちゃんを訪れた。ピンポン鳴らしても出てこない。なんとなく「居留守だ」と思って、諦めず何度も鳴らしたら、やっと出てきた。
「どうでした? 診てもらえました?」 「いやごめん。言うて無いわ。忘れてた。私も忙しぃてね、ごめんねぇ。」 ムカ~ッ、表情に出てしまった。
「悪いねぇ、私見せてもうとこか?」
Sさんには伝わってないなと思いつつ、この人が理事長なんだから、まっいっかと、おぼつかない足取りのおばあちゃんと階段を上がった。寝室にしている和室の天井板のシミを見せる。
「イヤッ! ほんまに漏ってるわ!」 「私が嘘を付いてたと云うの!」を呑み込んで、「ひどいでしょ。」 判ってもらえたらイイやと、「ちゃんと診て貰って下さいね」で、その日は終わった。
依然として防水屋が診に来た様子は無い。雨漏りは続く。シミはだんだん大きくなる。天井、ちょっと膨れてる?・・・しばらくすると・・・えぇっ! 天井板の継ぎ目が開いてきた!? 寝るトコ変えよ。居間にしていた部屋で寝ればいいわ。
・・・つづく