建売住宅の欠陥工事の責任を取った設計者

Dさんがこの建売住宅に住み始めて数年経った頃、お隣から「お宅、ムシ湧いてんのんちゃう?」と言われました。お隣との境界付近を見てもムシは判らないのですが、駐車スペースにある独立柱の根元のタイルが落ちかけています。売主に電話しましたが一向に見に来てくれそうにないので、近くの工務店にタイルの貼替を頼みました。

気軽に来てくれた工務店のオヤジは「この柱、腐ってんのんちゃいまっか」と言い、一番下のタイルを剥がしにかかったところ、いとも簡単にタイルが、しかも下地から剥がれてしまいました。そして柱の根元が露わになったのですが、なんということでしょう!基礎がありません! 柱が土間に直接建てられていて、柱脚はすでにゴソゴソなのです。

オヤジは尚もタイルを剥がし続けました。土間から50㎝ほど剥がすと、別の柱が見えました。つまりこの柱の下部は継ぎ足されたもので、本来必要だった基礎立ち上がりが無いにも関わらず柱の長さは他の柱と同じだったので、宙に浮いた状態だったのです。そして現場は柱を継ぎ足し、基礎がないから土間に固定して、そしてコンパネを巻いてタイルを貼ったのです。

怒り狂って売主に電話しましたが、まったく埒があきません。憤懣やるかたないDさんは「訴えたる!」と弁護士に相談しました。弁護士は「訴訟するとしても被告の資金力を調べないと」と、Dさんに関係者の名前を調べてリストにするよう指導し、売主・建築主・設計者・監理者・施工者が判明しました。売主と建築主は同一の建売業者、設計監理は建築士事務所Eでいずれも現存していますが、施工者は、経営危機の噂のある工務店でした。弁護士は建売業者と工務店の資産を調査すると同時に、懇意にしている建築士Fに建築士事務所Eについて問い合わせました。

FはEとは面識がありませんでしたが、設計監理者として何らかの対応をお願いできないかと頼んでみました。Eは、独立直後の仕事で、監理するつもりがないのに建築確認上の監理者になったことを認め、自分の責任としてまず工務店に協力を要請しました。けれど工務店は経営的にそれどころではないとすげない返事です。でも建売業者が「考えてみる」と返事したので、建築士事務所EはDさん宅を訪れて陳謝し、改修したいと申し出ました。そしてDさんは、それまでの怒りの対象が建売業者だったのに、見ず知らずの設計事務所が動いてくれると言うので、ホントかな?と思いつつも「よろしくお願いします」と言いました。

建築士事務所EはDさん宅を詳細に調査し、改修費用を算定して建売業者に提出しましたが、想定をはるかに超える金額だったことから、工務店に責任を取らせようと、建売業者は前言を翻しました。けれど工務店の協力を得られる可能性が極めて低いことを説明すると、建売業者は「なんで、うちだけがかぶらなあかんねん!」と態度を硬化させました。Eはたまらず「自分も半額負担しますから」とまで言いましたが、建売業者はうしろを向いたままで、それ以上耳を貸そうとはしませんでした。

Eは、今では官庁の仕事をコンスタントに受注するようになり、スタッフも抱えています。ここでDさんに訴訟されると、せっかく軌道に乗った事務所に傷がつきますし、なによりも自分に「よろしくお願いします」と頼んでくれたDさんに申し訳が立ちません。一念発起して、E単独で改修することを決意し、懇意にしている工務店に協力を要請しました。工務店の社長はEの意気込みに感心し、利益を度外視して協力することを約束してくれました。

EはDさん宅を訪れて経緯を報告し、単独で改修することを説明しました。D夫人は仮住まいを用意して欲しいと言いましたが、Dさんが「ほんまはEさんよりも建売屋や工務店が負担せなあかんのに、それをひとりで被ろうとしてくれてるんや。協力したげなあかん!」と説得してくれました。

その後の改修工事は順調に進み、D夫人も現場にお茶を出してくれるなどわだかまりも無く工事を終えることが出来ました。

Eさんは、若い建築士です。いつもカバンいっぱいに詰め込んだ資料を持ち歩いて仕事しています。名義貸しをした事実は反省すべきことですが、そのことと正面から向き合って解決できたことは、仲間として誇りに思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です


*

トラックバックURL:
http://agoras.or.jp/column/archives/64/trackback