豪華マンションの地下漏水

とてもバブリーなマンションだ。下町の一角に、そこだけ別世界のよう。
まさしくバブルの頃に販売されたからもぅすぐ10年(相談時)。最初はオクション。超有名お笑いタレントが最上階に住んでいたとか。最上階は、その下の階の2戸分が1戸になっていて、住戸内に中庭まであるらしい。

エントランスにはホテルのようなフロントがあり、管理会社が常駐していて外来者をチェックしている。名乗ると「お待ちしておりました」と、丁重に招じ入れられた。奥は、立派なロビー。本革張りのソファセットが4セットあって、BGMも流れている。すぐに数人の理事が現れた。名刺交換してロビー奥を見ると庭園?・・・かと思ったが、かつて庭園だったろうと思わせる残骸。「これが問題かも」と依頼者。

挨拶もそこそこに一緒に元庭園に出てみた。穏やかな冬日和。空が明るい。奥の隣地境界沿いにはケヤキの高木をはじめ、まぁまぁの植栽が育っている。が、うぅ~ん、これって庭園じゃないよね。っつうか、造園計画無しに樹を植えただけという印象。

造園計画無しに植栽を設けるということは、建築計画無しに建物を建てることと一緒だよね。勿体無いなぁ。・・・

それでも土地柄からすれば贅沢な戸外空間。これでちゃんと造園家が関わっていたら、素敵な庭園になっただろうになぁ、そしたらこのマンションも、もぅちぃっとゆったりした雰囲気が持てたかもしれないし・・・と意匠屋根性が頭をもたげる。

ロビーの庭園側はピロティになっていて、これに半分掛るように、でっかい異物がある。地盤から80cm位の円形の立ち上がりのある邪魔物。「これが問題かも」と、また依頼者。

かつては噴水だったそうだ。入居が始まってから初めての冬に水道を止め、総会で水を抜くことを決めた。何故って、水道料金にびっくりしたから。上水道を垂れ流していたそうだ。「9年間このまま?」と訊くと「なかなか撤去できないんですよ」。

ロビーに戻って竣工図を見せてもらった。あれっ、地階がえらくでかい。ん?・・・そっか、元庭園の下にも地階があるんだ。えっ? 噴水の下にも地階が? 「そうなんです。地下駐車場が。」

案内されて地階へ。広い。機械室以外全域が駐車場で2段式。各戸1台以上確保されているらしい。へぇぇって感心してたら、キィッと車が出て行く。ジャガーだ。入れ替わりに入ってきた。BMだ。よく見たら、キャデラック、ベンツ、しかもその中でも高そうな車種ばかりが並んでいる。

地階の薄暗さに眼が慣れてきたら、あれ、天井スラブから金属トレイがぶら下がっている。「パン」だそうで、空調ドレイン管のような排水ホースもつながっている。しかも、あちこちに。

このマンションは、入居以来ずぅっとこの地下駐車場の漏水に悩まされている。
施工者は中堅ゼネコン。電話すればすぐに駆けつけるし、年に数回は様子を見に来るという体制を採っていたが、さすがにここ2~3年は間遠になり、電話しても動きが鈍くなってきた。

そして管理組合に対して曰く「パンを、今のように仮設的にぶら下げるのでなく恒久的なものにさせて頂く」と。

理事会は「瑕疵担保期間が満了するから、これで勘弁してくれということなんでしょうがねぇ・・・」と当惑している。

ちょうど大規模修繕の時期に近づいている。「その工事を発注したら、根本的な改善をしてくれそうな気配もあるんですが、何がいけなかったのか原因も言ってくれないので、云うとおりにして大丈夫かどうか、信用できないんです。」漏水といえども、雨の日に漏るんじゃない。

雨の数日後、水とともに白華が垂れてくるのだ。駐車場奥の外壁を見て頂戴と案内された。確かに激しい白華が見られる。そして数箇所の注入痕も。でも今は別のところから垂れている。
管理会社の人が「パン」を外してくれた。白華の塊と若干の水滴。雨が降ったのって数日前かな。「水滴は結構長く続くんですよね」 それにしても汚い。地下駐車場ってそもそも雰囲気よくないし、蛍光灯の青暗いあかりに照らされた打放しとモルタル。そしてなんとなく湿気っぽいにおいまで。

管理会社の人が「昨日見つけたんですが」と別の場所に移動した。空いている2段駐車の天井に、新しそうな白華。理事長が尋ねた。「ここ空いてる区画ですか?」「いいえ、○○さんの区画です」理事長の表情が変わる。「えぇっ。○○さんって・・・あの人の車、確か1千万以上するんじゃぁ?」「そぅですよ! 日本に数台しか無いって聞きましたよ」「えらいこっちゃ! すぐにパンつけて貰ぉ!」「最近は電話してもねすぐには来てくれないんです」「じゃぁ、ともかく区画を替わってもらいましょう」「・・・○○さん怖いんです」「判りましたよ、私からお願いしてみます」

「パン」を設置するまでに、白華の被害で、既に数台の車に弁償しているとの事。幸か不幸か国産車ばかりだったので、さほどの金額にはならずに済んだそうだが、今回は違うと怯えておられる。

理事会では、ゼネコンに防水のやり替えをさせようという考えだったらしい。ちょうど大規模改修の時期も近いし、基本はゼネコンの負担で、それに修繕積立金をちょっとonするって言えば、ゼネコンも納得するかもしれないし・・・。

「理事長。最近ゼネコンは高姿勢ですよ。」「そんなこというても、雨が漏るのはゼネコンの責任でしょ」「それはそうなんですけどね、営業会議でね、この建物の大規模改修は『いらん!』って方針になったらしいんですよ。」「どぅいぅこと?」「勿論正式の話じゃないんですけど、10年経って担保期間が過ぎたらこの建物から手を引こうというつもりらしくて・・・」

揉めたらしい。凄く凄く揉めた・・・らしい。

「ピロティと庭を全部やり変えてもらったら、防水も全部ちゃんとなるんでしょ。」
「うちは以前からの車にまだ乗ってますけど、これじゃぁ新車には買い替えできませんよ。」
「△△さん、車から荷物降ろしてるときにポタッときたそうですよ。」
「えぇっ!荷物に?」
「いいや、服に」
「管理組合からすぐに謝りに行きましたよ」
「弁償は?」
「普段着だから、いぃって」
「ゼネコンは?」
「そりゃぁ謝りに来ましたよ」
「ピロティやり替えるんだったら、その時に噴水も取ってしまえばいい。」
「ここのお庭ってなんか暗いですよね。」
「イングリッシュガーデンになればいぃな」
「それって、大工事ですよ」
「いぃじゃないですか、どうせ子供達もあまり外に出ないんだし」
「そうよね、友達のマンションなんかお花見やクリスマスや、それから七夕も」
「ガーデンパーティができるようなお庭がいぃな」
「せせらぎがあれば蛍が・・・」
「街中なんだから無理ですよ」
「せせらぎ作ったら噴水と一緒やん。水道代高いよ」
「噴水は駄目よ」
「管理人さん、空っぽの噴水の中の掃除が大変だって」
「やっぱりイングリッシュガーデンよ」
「だれがお庭の世話するの?」
「管理人さんか・・・専門の人いれてもいいじゃないの」
「お庭が綺麗になったら、資産価値上がるかなぁ?」
「これだけ迷惑かけられてるんだから、ゼネコンにちゃんとやってもらいましょうよ」
「あんなトコ、任しておいて大丈夫?」
「でもまだ担保期間なんでしょ」
「せやけど動きよれへん」
「云うだけ云わんと」
「云うてますよ!」

結局のところ、殆どがオクション購入者だから、「逃げに掛かってるようなゼネコンだから、アテにならないよ」という意見が大勢を占めた。大変な工事になるから、道路から改修工事をやっている様子がわかる。下手をすると「瑕疵マンション」と云われて資産価値が更に下がるんじゃないかという意見も出てくる。ただでさえ買った時の半額に落ちているのに、これじゃぁ売って引っ越すことも出来なくなる・・・と、・・・結局金持ち喧嘩せず。

けれど漏水があることは事実で、このまま「お構い無し」とするには少々気持が収まらないという雰囲気は残り、いくばくかの賠償金を払わせて、あのゼネコンとは手を切ろうということになった。

手続としては、訴訟提起。すぐに付調停になって、そこで出てきた話だが・・・

防水業者がしっかりしてたら、ゼネコンも、も少しマシな対応ができたのだけれど、この建物竣工直後に倒産してしまった。現場所長に訊いたら、「非常に特殊な防水で、訳が分からんのです」という。「何故普通の防水にしなかったのか」と問いただしたら、「その防水業者がメーカーと一緒になって強力に営業を掛けてきて、メーカーは新開発の商品だから原価でさしてもらうと云うたから」と。メーカーが先に倒産して、あとを追っかけるように防水業者も倒産した。新開発の商品だということで、詳細な情報も今となっては得られず、ゼネコンとしては窮している。「正直に申し上げれば、今考えられることは1階スラブ上の防水を全てやり変えることですが、そんなこと会社には云えませんし・・・vv;」

勿論、訴訟提起までに簡単な調査は行なったが、現場所長が「訳分からん」というものを簡単な調査で明らかにすることなんぞとても無理。

影響なさそうな部位で押さえコンクリートをはつってみたら、ゼリー状の層が出てきた。手に取ると意外とさらさらしていて、粘性もない。まるでお粥。分厚い押え層に押し潰されているところもある。これで防水にはならんやろ!と思っても、調べようも無かった。ゼネコンはそれなりの会社で、まさか「訳分からん」とは!

管理組合側は、どうせ大規模改修の時期だからとあまり高額の賠償を要求せず、早期に和解が成立し、その後3年程度で予定通り大規模改修工事を行なった。訴訟に携わった住人は、そして誰も居なくなった。

やっぱり、金持ち喧嘩せず・・・かな。

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