設計のまずさ

かつて、建築相談のテーマの殆どは施工の問題だった。
勿論そこには監理の問題はあるが、設計の問題が俎上に昇ることは少なかった。
しかし最近、これが増えているように感ずる。

設計の拙さというか不味さというか、なんとも割り切れないお話を。

【塀】
戦前からの長屋がまだ残る下町。若い夫婦が、祖母が所有していた土地に住宅を新築した。
引っ越してすぐに、隣組の役員という人が訪れ、挨拶もそこそこに切り出した。
「お宅が立てはった裏の塀ですけど・・・ちょっとまずいんでねぇ・・・動かして欲しいんですわ」
「あぁ。あの塀は、よく見てもらえばわかるんですが、マンホールの上はちゃんと空けてますんで問題ないと聞いてますけど・・・。」
「いや、マンホールが開いたらえぇっちゅうモンやないんですわ」
「え・・・?」
「どこも、あんなぎりぎりに塀立てたはれへんでしょ あれね、昔の肥汲み路地ですねん せやから、どこも控えてはりますんや」
「そんなこといわれても・・・ うちの土地ですよ・・・」
「亡くなったおばぁちゃんから聞いてはれへんのでっか? 建てて貰わはった大手メーカーもなんにも言わへんかったんでっか?」
「・・・別に・・・」
「兎に角ね 近所が困りますんでね なんとか考えとくなはれ 頼んどきまっせ」

建築協定などでは勿論ない。
しかし、その並びの建物が皆控えているのに一軒だけ出っ張って、設計者も現場も何も疑問に思わなかったのか?
建築は、法令を守って居ればそれでよいというものではない。特に、新しく居を構える人たちにとっては、ただでさえ近所に馴染むことが大変なのに、建築工事がそのハードルを引き上げてどうする。

【居室の給気口】
或るワンルームマンションには、住戸の梁型に給気口が嵌め込まれている。
新築時に入居した住人が、1年ほどで引っ越した。それで、オーナーがクリーニングを依頼したところ、その業者からクリーニングでは間に合わないと言われた。
訊くと、フィルターが目詰まりしたまま放置していたから、その周囲のクロスがめちゃくちゃに汚れており、クリーニングでは足らないのだそうだ。
クロスを張り替えなければならないが、オーナーはその費用に驚いた。
一室だけなら何とか凌げるが、バタバタと4軒の空室が出て、いずれの住戸も、クロスを張り替えないといけないといわれたのだった。
新築後1年でクロスの張替えは堪ったものではない。
簡単に納得できるはずも無く、建設会社に電話した。
「こんなに早くクロスを張替えなければならないのはおかしいんじゃないの?!」
「そんな事仰られても、住人がフィルター掃除してくれていないからじゃないですか。入居者に配布して貰っているファイルに、月一回清掃してくださいと書いてあるでしょ。」
見事に切り返され、オーナーは
「そっか。なんて行儀の悪い住人だ!」
と憤ると同時に、
「クリーニング業者も言い過ぎだ!」
と考え、自分で掃除しようと思い立った。
ダスターと洗剤を持って空いた住戸に入って、はじめて給気口の存在を知った。
室内側に大きく出っ張った梁の真ん中。確かに汚い。予想を上回る。
給気口を中心に、お陽様マークのように放射状の汚れ。
「よぉこんな汚いままで棲んではったわ」
息子も
「うわっ!えらい汚いなぁ」
と言い放つ。
かなり高い位置にあって、息子でもまったく届かない。脚立が要る。
息子が1階の物置から脚立を持ってきて
「僕がやろか?」
と言ったが、
「これはお母さんの仕事よ」
と息子の肩に手を掛けて脚立に昇った。・・・が、梁の出っ張りが大きくて、壁に手をつくことができない。息子が手を伸ばして支えてくれようとしたが、それでも怖くて立てない。

「お母さん無理やわ。お願い」
と脚立を下りた。
息子がフィルターを取り外して「えらい汚いなぁ」と、また顔をしかめた。
そして、怪訝な表情に変化した。

「お母さん、僕、今、下から脚立持ってきたやん」
「住んではる人・・・脚立なんか持ってない・・・よね」
「背が低かったら、椅子に載っても届かへん・・・!」
「こんなん・・・! なんぼフィルター掃除してくださいって書いといたって、出来へんやん!」

外壁の窓上の大梁に給気口を設置している。言うまでもなく、シックハウス対策の給気口で、室内側のふたをプッシュして開口面積を調節するというお馴染みの品物。
だが、ふたにはとても手が届かない。
加えて同じ給気口が2箇所並んで設置されている。
そして排気は浴室・便所の天井扇か、キッチンのレンジフード。
いずれも風量は大きく、相当なサプライが必要なのだろうが、それにしてもワンルームの居室に給気口2箇所というのはちと多い。
給気口を設置すればそれで足りるのか?
給気量調整用のふたには手が届かなくてもよいのか?
フィルター掃除に脚立が必須で、それでよいのか?

【機械駐車設備】
賃貸マンションの1階の過半が機械駐車設備で占められている。
単純な3段式ではなく、パズル方式のうちでもとりわけ複雑なものである。
条例で規定されたものではない。在って邪魔なものではなかろうが、空き区画が多い。
某タワーマンションの地下駐車場は、3/4が空いている。
郊外地の古いマンションでは、居住者の高齢化のためか100%確保された駐車区画に空きが目立ってきている。
若い世帯が多いマンションでは、ワンボックスカーが機械駐車装置に収容できず、これも空き区画が増えている。
鉄道の駅から徒歩圏内の立地であれば車の必要性は極めて低いし、若者の車離れが叫ばれるようになって久しい社会状況からして、このワンルームマンションにこの機械駐車設備は「過剰設備」ではなかったか。

話が少し逸れるが、機械駐車装置の法定償却は15年らしい。
適切にメンテナンスしておけば20年程度は使えるということだが、仮にそぅだとして、1台の新設コスト100万円プラス維持管理費などを加えて20年(240ヶ月)で割ると、設定すべき月額賃料は1.5万円とも1.7万円とも言われている。
都心では無理のない賃料かもしれないが、そこに空き区画率を考慮すると、途端に厳しい算定になる。

【駐輪場】
100戸程度の分譲マンション。
駐輪場には道路から直接入ることが出来る。
スペースとしては十分すぎるほどだが、平面形が入り組んでいて、入り口から奥を見通せない。
突き当たりは敷地内空地に面した外壁だが、開口部は無く行き止まりである。
自転車を置いたら引返さないとエントランスに行けない。
そして窓が無いから、照明は常時点灯。
つまり、昼夜を問わず、自転車で帰宅した住人は、内部の様子をうかがうことが出来ずに駐輪場に進入しなければならないし、自転車を置いた後は自転車の陰に誰か潜んでいないかと怯えながらエントランスに向かわなければならない。
「怖いね」と事業主系列の管理会社に伝えたところ「監視カメラつけられたらいいんじゃないですか」と言われ、ついでにとカーブミラーも合わせて発注したそうだ。
最近どこもかしこも監視カメラだらけで、犯罪捜査には威力を発揮しているようだし、抑止力もあるらしいが、前提には適切な建築計画があるべきで、監視カメラが必須というのはいかがなものか。

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あれもこれもそれも、どれも、法律や条例に反するものなどでは勿論ない。
建築主や区分所有者・入居者たちは「どぅなんやろなぁ・・・」と思いつつも異を唱える事は少なく、ぼやきながらもなんとか対処している。だから大きなクレームにはなっていない。
しかし、根本的な改善を思い立ったとき、予想外の費用を要するか、或いは大きな費用を無駄にすることになる。
施工者に「なんとかならへん?」と言っても「勿体ないですよ」といわれる。
「こんなつもりや無かった」と言うと「うちは図面どおりに施工しただけですから」と逃げられる。

「設計ミス」ではないかもしれない。しかし「設計の問題」であることは確かである。

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